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安藤裕子 Live 2016「頂き物」 @中野サンプラザ 05.21(土)

 昨年末の「Premium Live ~Last Eye~」から5ヶ月ぶり、バンドライブでいえば「あなたが寝てる間に」以来1年弱ぶりに安藤裕子のライブが開催された。

 

 

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 シンガーソングライター安藤裕子が人から曲を”頂いた”アルバムである9th Album『頂き物』のツアーである今回のライブ。客演の関係上か大阪と東京の2公演しか開催されず、何とも貴重なライブとなった。上京後初の安藤裕子ライブの会場は、取り壊しの噂を聞いたり聞かなかったりする中野サンプラザ。バンドライブでお馴染みだった渋谷公会堂も改修工事に入ったようで、2~3000人収容程度のちょうどいいキャパの会場がなくなってきているなあと一抹の不安を覚えつつ、開演を待つ。流麗な緞帳と、映画館のように段差のついた客席が何とも”ホール”といった感じ。

 

 

 ジャジーなSEが開演時間の18時を過ぎても流れており、いつ始まるものかと待ち構えていると、なんとSEに合わせてキーボードがコードを鳴らし、客電が急に落ちる。紗幕越しにメンバーの影が大きく膨らみ、山本さんの緩やかなコードの刻みと共に、安藤さんの祭礼のような声が響く。地声とファルセットの転換に独特の裏返り方を持つその声に、一瞬にして舞台に気を惹きつけられる。「月と砂漠 干上がる オアシス 君が化けた あの日の残像」という歌詞が繰り返される。シンバルの高音の劈きと共に砂漠の乾いた土埃が舞い上がるような錯覚を覚えながら、激しいドラムのフィルインと共に、紗幕が上がり、安藤さんが登場。白いゆったりとしたオールインワンの背中に孔雀のような色鮮やかな羽根をつけた衣装。くるりや、Salyu、現在絶賛ツアー中の秦基博など、多数のアーティストのバックを務める敏腕女性ドラマーあらきゆうこさんは今回が初顔あわせ。濃密でまろやかなグルーブを持ちつつも、タイトなリズムキープが軽やかな、味のあるドラマー。1曲目はアルバムと同じく、小谷美紗子さん提供の『Silk Road』。アルバムとは大きく変わる曲の始まり方に、毎度のことながらただのアルバム再現には終わらせないというバンマス山本さんの意気込みを感じる。ライブならではのキーボードのバッキングに痺れ、効果的に挟み込まれる赤い照明に鳥肌を立て、バレエで鍛えられた安藤さんのしなやかな踊りに目を見張り。中間部のリズムが変わる部分は、やはり猛烈にカッコよかった。アウトロに向け、音の塊が勢いを増しつつ、爆発的な熱量でもって曲が終わる。

 

 

 ドラムはそのまま、『ロマンチック』に。「あなたが寝てる間に」の追加公演で演奏されたバージョンと同様のアレンジ。いい意味でチープな浮遊感のあるシンセの音と、安藤さんのかわいらしい歌声が爽やか。2番Aメロのキメが気持ちいい。デイザー動画で既に知っていたとはいえ、大好きな曲なので初めてライブで聴けて嬉しかった。近年になってまたライブで演奏されるようになったのは、シリアスな私小説的歌詞が多かった時期を抜け、初期の軽い歌詞が入り込める余裕ができたからなのかなと思ったり。

 

 

 客席左手がにわかに騒がしいなと思うと、なんと「DJみそしるとMCごはん」のおみそはんが。笑顔で、手を振りながら会場内を走り回る、走り回る。これには思わずシャイな安藤裕子ファンも総立ち。1階をひと回りしたところで、舞台上に上がると既に、カッティングギターと都会的なシンセ、タイトなリズム隊のイントロに「I Want You」の言葉。なんと3曲目は松本隆トリビュートアルバム「風街であひませう」収録の『ないものねだりのI Want You』。確かアレンジは前回「あなたが寝てる間に」のベースを務められていた鈴木正人さんで、今回のベースの沖山さんは「風街」の中ではYUKIの『卒業』のアレンジをされていたんじゃなかったかなあ、なんて考えながら、自然と体が揺れる、揺れる。最初のラップパートはおみそはんの面目躍如。2番のラップは安藤さんが歌われていた。なんといっても、間奏を制圧する高周波のキリッとしたシンセソロが堪らなかった!

 

 

 演奏が終わり、いつものゆるゆるMCタイム。「頂き物フェスティボー」という安藤さんの言葉に「フェスティボー」と繰り返すかわいらしいおみそはん。前回の大阪公演ではそのまま次の曲に進んだせいで、安藤さんの息が絶え絶えだったよう。そのため、今回は自ら名乗り出たおみそはんがMCを担当。「安藤さんと霜降紅白歌合戦という曲を歌ったお陰で、去年は一緒にたくさんのお肉を食べさせてもらいました。羨ましいでしょ?おまけに中野サンプラザというこんなに大きなステージにも立たせてもらって」「安藤裕子ねえやん!今、初めてねえやんとお呼びしたんですが。心の壁を更に打ち破ろうと」。安藤さんが「舞台上では親友だ!」なんて言いながら、肩を組む「本当は人見知り」な2人。「大阪では息が上がっちゃって、ぜえぜえ言いながら歌いはじめたので、おみそが”私が喋ります”、と」「なにせこの曲、言葉が詰まってるから」という安藤さんに「ぎゅうぎゅう」なんてダブルミーニング的セリフをおみそはんが言いつつ、『霜降紅白歌合戦』へ。

 

 

 印象的なピアノリフは同期するのかなと思っていると、なんと今回が初顔合わせである元・チュールの酒井由里絵さんが人力で再現されていた。安藤さんと声の相性がいいコーラスで歌を膨らませつつ、結構がっつりとキーボードを弾く酒井さん。安藤さんの楽曲はピアノにオルガン、ストリングス、ブラスなど、キーボードの負担の大きい楽曲が多いので、キーボードが2人になってバンドサウンドに厚みが増していたのが、ピアノ弾きとして個人的に嬉しかった。赤身役の安藤さんと、脂身役のおみそはんが、お互いになじり合う歌詞に合わせて”ふり”をつけたり、舞台上でちょっかいを出し合ったりしているのを見ると思わず頬が緩む。曲の途中で手を振りながら舞台袖に戻るおみそはん。アウトロでは、安藤さんがフェイクに乗せて「グッバイおみそ~」と別れを惜しんでいた。

 

 

 「もう既に疲れた。あと1、2、3…16曲!」と曲数のネタバレをする安藤さん。キーボードがもう1台出てきたり、譜面台が2つ用意されたり、何やら準備がはじまる舞台上。なんとか準備中MCをしようとするも、「あれ、場が繋げない……」と会場を笑わせる。「もっと喋り上手な人がMCをしてくれたら……ちょっとそこのカメラマンの2人、こっちに来てくれる?」と呼びかけ、客席前方左右にいるカメラマンにスポットライトが当たるとなんとスキマスイッチのおふたりが!思わず叫び声が上がる客席。

 

 

 「色々任せちゃってごめんなさいね、なにせうち貧乏所帯なんで」と安藤さん。大橋さんは「全然違和感ないでしょ?」「帽子被りながらカメラ回す人はいないだろうし、シンタくんはまだ違和感あるけど、僕なんて本当に気づかないでしょ」と自虐。大橋さんが赤いシャツ、シンタくんが赤いセットアップを着用されていたので、「おふたりとも赤が素敵!クリスマス?」と安藤さん。「もうすぐクリスマスですからね、意識しました」。と自然とコントが続く。

 

 

 「今回の”頂き物”という企画をはじめるにあたって、最初にお願いしたのがスキマ」「スキマスイッチの代表曲のような曲をお願いした。私も楽曲提供するときは、提供相手に合わせて曲作りをするのでやりにくい依頼だろうなあ、と(笑)」と『360°サラウンド』の楽曲説明が続く。「僕が”こんな感じですよ”って歌った通りに一言一句そのまま歌ってくれて感動した」と大橋さん。「大橋さんの声には独特のグルーブ感があって、”頂き物”の中でも誰が作ったか分かりやすい曲ナンバー1だと思う。むしろモノマネにならないようにするのが大変だった。歌い続けていると最近は自分の癖が出てきちゃいましたけど(笑)」と安藤さん。

 

 

 「音楽面でもスキマの癖があって、もっさん(山本隆二さん)はコードを変えるに変えづらかったようで」「スキマらしいコードで、でももっさんも”山本!”って刻みたいコードもあるだろうし」と安藤さん。「”ここは山本さんお願いします”って楽譜に書いて渡した部分もありますよ」とシンタくん。「あのPVもすごいですよね、皆さんやりました?」という大橋さんに「スマホが壊れていて、私やっていない……」と安藤さん。「スマホ画面にギリギリまで顔を近づけてやりましたよ」とシンタくん。「それじゃあ、喋ったからには」と『360°サラウンド』がシンタくんのピアノではじまる。個人的な話になるが、私が使用しているキーボードがシンタくんと同じタイプのもので嬉しかった。

 

 

 最初のサビは大橋さんはオク下で。ふたりのボーカリストの声の重なり方がなんとも贅沢。Aメロは大橋さんが原キーで。あの熱を帯びたソウルフルなハイトーンボイスが会場内に響き渡る。メインでキーボードパートを担当するシンタくんと、更に厚みを加える山本さん、ストリングスパートを弾く酒井さんの3人のキーボードが豪華。あらきさんのただの4つ打ちに留まらないドラムが高揚感を煽り、自然と手拍子が起こる。安藤さんと大橋さんの、メインを担当する部分、コーラスを担当する部分の振り分け方が完璧で、何だかこの舞台で『360°サラウンド』という曲が完成したような感じがした。

 

 

 アウトロで安藤さんが大橋さんに耳打ちをしていたのだが、どうやら「2人もボーカルがいるのに、間奏は手持ち無沙汰になる」という話だったよう。「大阪も来てた方もいるんじゃないですか?」という大橋さんに、「あの人来てましたよ」と客席の男性を指差す安藤さん、驚いてしゃがむ男性。「それ怖いですね!あの人と、あの人と、あの人は来てたみたいな」と大橋さん。「視力がよくて、2.0あるんですよ。見えすぎちゃって、怖くて。ライトがつくとみんながこっちを見るので、”見ないで”って目をそらしたり、目を閉じたり」という安藤さんに対して、「そういう仕事です」とシンタくんの冷静な突っ込み。「でももしここに1人か2人しかいなかったらそれはそれで怖いでしょ?」という大橋さんに、「それは怖い!皆さん来てくださってありがとうございます」と安藤さん。

 

 

 「話変わるけど、豆電球がないと眠れなくて」とライトの話繋がりでいきなり大橋さんが話をぶち込む。「うちの子と一緒!」と安藤さん。「ホテルなんかで真っ暗で寝ると、トイレ行ったときなんかに足の指をぶつけて、朝起きたら血だらけに」と”真っ暗の危険性”を論じるシンタくん。何かの話で「どうですか?裸足のピアノマンは」と靴を脱いでいたシンタくんをいじる安藤さんに、「前の人しか見えないですから」と言いながらちゃんと足をあげて、素足を見せてくれる優しいシンタくん。緩い掛け合いに笑っていると、曲への前振りがはじまる。「この曲がやりたくて」と大橋さんは前から言ってたいたよう。「タイトルが素晴らしくて」「それじゃあ、安藤さんよろしくお願いします」と言って、安藤さんが口にしたタイトルはなんと『世界をかえるつもりはない』。

 

 

 原キーで歌う大橋さんに合わせて、少しキーが下げられた、「あなたが寝てる間に」収録のバンドバージョンの『世界をかえるつもりはない』。余白までも音楽に変える、耳にまとわりつくグルーブを生むあらきさんのドラム、印象的なフレーズを聴かせてくれる沖山さんのベース。安定感のあるリズム隊の元で、山本さんとシンタくんの鍵盤が自由に踊りまわり、2人の稀有なボーカリストが互いに呼応するように熱量を増してゆく様は圧巻だった。「あいしてます」と囁く部分を、大橋さんがオク下でハスキーに歌われていたのが、また何とも味わい深かった。安藤さんの天女の声のようなファルセットに、地響きのような大橋さんの唸りが絡みつくアウトロのフェイクには鳥肌が。序盤にして圧倒的なステージを見せつけ、最後は安藤さんがスキマスイッチのおふたりの肩を抱いて、お別れ。

 

 

 また新しくステージ上で準備がはじまると、いつの間にか何やら見慣れない姿がボソボソと口を開いている。安藤さんに「マイクを通して喋りなさい」と言われたその人は、銀杏BOYZ峯田和伸さんだった。「この間も言いましたけど、汗に濡れてると、その、またいいですね」と変態的な発言を浴びせる峯田さんに、「いいだろ、峯田!」とあっけらかんとした安藤さん。「珍しくちゃんと服着てるね」と言う安藤さんに「いつも着てますよ!」と峯田さん。どうやら「短パンにランニングみたいなイメージ」だったため、「ちゃんとシャツを着てる」のが珍しいようで。「家近いから!」といまいちよく分からない理由を返答し、さらりと家バレをする峯田さん。「湾岸辺りまで行くとそれだけで疲れちゃうから、やっぱ歩いてこられる距離はいいね」と、そこから中野サンプラザトークが続き、「家から近い、この素敵なホールで安藤さんとやれて嬉しいです」と締めくくる。

 

 

 「この上にホテルがあるんですよ」「今出てるドラマ――ちょうど今日やる『骨』を主題歌で歌ってるんですけど――家だと誘惑が多くてセリフ覚えられなくて」「家の近くにホテルがないか探してたら、サンプラザの上がホテルで。和室があって、そこだとするする覚えられるんですよ」と意外な事実を教えてくれる峯田さんに「番宣だ、番宣!」「ちょっと待って、撮影場所に近いとかならまだ分かるけど、なんで家の近所でわざわざホテルに!?」と茶々を入れる安藤さん。どうやら中野周辺でもドラマ撮影をやっていたそうで。何かの発言に対して、「ですよね山本さん!」といきなりキーボードの山本さんに話を振るも、「マイクないから」と安藤さんに一蹴される峯田さん。そんなこんなで、峯田さん主演で金田一風MVも制作された『』へ。

 

 

 峯田さんのアコギに乗せ、安藤さんの緩急織り交ぜた伸びやかな声が響き渡る。重たいバンドサウンドが続いていた中、アコギ一本で安藤さんの声を聴くと、ボーカリストとしての底力をひしひしと感じる。アコースティックライブをまたやってくれないかなあなんて思っていると、終演後発表されましたね。楽しみです。それはさておき。峯田さんもまたすごい!生の歌声をお聞きしたのは初めてだったのですが、腹の底から湧き出てくるどうしようもない感情を声に変換したかのようななんともガッツのある、まさに”骨”のような歌声。「東京タワーのてっぺんから、三軒茶屋までダイブするー。」の後の峯田さんの「BABY、来たぞ!」という叫びを今夜は「来たぞ、サンプラザ!」と歌われていた。演奏後、峯田さんは「自分で弾いて自分で歌うのもいいけど、やっぱりこうバックで演奏してもらって、コーラスやるのもいいな」としみじみと仰られていた。

 

 

 「安藤さんの声をちょうど10年位前にCMで聴いたとき。多分大昔の人が音楽を楽譜に残すようになったとき、元々声を震わして歌っていたところを、そう歌ってもらうために、何か記号を書いたりして……それが後々”ここはファルセットで歌う”っていう風になっていったと思うんですけど、安藤さんの声はその”元々”の感じがした。ファルセットで歌おうと思って声が震えるんじゃなくて、自然とそうなる。そういう揺らぎも、覚悟も、自分の弱さも、舞台だったらありのままで晒していいと、そういうところに、いちアーティストして尊敬を覚えます」と訥々と真摯に思いの丈を吐露し出した峯田さん。「大阪ではふざけすぎちゃったから、真面目にね」「こういう場でないと言えないから。飲み会だとふざけちゃうし」と。ちょっとしんみりしていると、「そうだ、近いんだから峯田家で打ち上げしたら?」という安藤さんのお誘いを「それは無理です。本当に人を呼べる状態じゃないので」とあっさり断られていた。

 

 

 設楽さんのアコギをバックに、峯田さんががなり声を上げる……と、よく歌詞を聴いてみると、「撫でて優しく」という言葉が。なんと『のうぜんかつら (リプライズ)』を原キーで歌われていた。「のうぜんかつらの歌のように」のキーが高い部分は、平坦に歌われていたけれど、それもまた味があって。峯田さんの歌声は叫びだな、と思った。決して小手先の技術とか声量とかじゃなくて、自然と内側から溢れ出る叫び。感情の発露。そしてそのスタイルが安藤さんと近しく、だから峯田さんは安藤さんに惹かれるんだろうなあと、2人の魂のボーカリストが通じ合う所以を探りながら、また生まれ変わった定番の『のうぜんかつら』を何とも新しい気持ちで聴いていた。安藤さんのおばあさんが亡き旦那さんに向けて書かれた散文詩が元になった『のうぜんかつら』。今回峯田さんとデュエットされることで、おじいさんの視点も加わったというか。今回の『のうぜんかつら』はむしろ、おじいさんが置いて行った妻に向けて歌っているようなイメージだった。

 

 

 峯田さんもいつの間にか去り、「みんないなくなっちゃったね」という言葉通り――もちろんバンドメンバーはいるけれど――舞台上は安藤さん1人に。「今回は”頂き物”というアルバムのツアーなので、アルバムの曲が中心にはなるけれど、自分の曲、懐かしい曲も歌おうと思います」といつものバンドライブがまた新たにはじまる。

 

 

 歪んだオルガンの荘厳な響きに合わせて、低音が効いた安藤さんの声が響き渡る。2012年の夏フェス以来だろうか、久しぶりに演奏された『輝かしき日々』だった。個人的な話になって申し訳ないですが、初めて自分で買ったCDがシングル『輝かしき日々』。地元の最寄りのTSUTAYAまで、冬の風が冷たい田舎道を自転車で30分駆け抜け、手をかじかませながらこっそり買いに行ったことをふと思い出した。J-POPのCDを買うのを親に知られるのが何だか恥ずかしくて。中学3年生のゴールデンウィーク、初めて行った安藤さんのライブ「勘違い」での1曲目もこの曲だったなあ。東京公演の最後、安藤さんが歌えなくなってしまったのを知っていたので心配しながらの初ライブ。イントロが激しいバンドサウンドで1分ほど演奏される中、安藤さんが途中で登場し、歌い出した瞬間、2階席だったけれど、安藤さんの生の歌声を聴いているということに猛烈に感動した。「中学生が1人でライブなんて」と両親が大阪までついてきたんだった――なんて過去を思い出しながら、今、志望校に合格し、東京で安藤さんのライブに来ている事実を考えると何だか不思議な気分になった。つい最近ファンになったような気がしていたのに、気がつけばもう7年も安藤さんの歌をずっと聴いているんだ。何だか自然と涙が溢れ出て、暴力的に幸せを歌う曲なのに、視界を歪ませていた。アウトロの「あなたを連れ去りたい」のフェイク、「秋の大演奏会」のバージョンでも同じフェイクをされていたが、微妙な音程の揺らぎが堪らなく好き。ラストはシャウトもしながら、設楽さんによるエレキギターディストーションと共に、爆発的な多幸感でもって曲が閉じた。

 

 

 続くのは、ソリッドなドラムに激情的なピアノが乗る、sébuhirokoさん作詞作曲の『溢れているよ』。Aメロは安藤さんお得意のファルセットでか細く、サビは近年すっかりモノにされたチェストボイスでたくましく。さすが、多数の作品で劇伴を務められている世武さんだけあって、安藤さんの声質を活かした巧みな曲。アウトロでの、安藤さんの声を掻き消すほどに荒れ狂う、歌詞に呼応する”溢れそうな”エモーショナルなピアノが胸を打った。ファンタジーの世界へと誘うリバーブの効いたキーボードのイントロ。「Encyclopedia.」ぶりではないだろうか、久しぶりの『再生』が続く。言葉が気持ちよく詰まったAメロから、謎の呪文を呟く幽玄なコーラスの混ざり合い、そしてサビ前の絶唱、密やかな熱を感じるサビ。巧みなコードづかいの、ラストの壮大な広がりに視界が広がるような感覚を受けながら、楽曲の深度を増してゆき『海原の月』へ。安藤さんのライブで歌われる回数が最も多い曲ではないだろうか。別れを歌うようでもあり、また新たな出会いを歌うようでもあり。悲恋なのか、愛の絶頂なのか分からない微妙なニュアンスの歌詞。青い青い照明と、叙情的な歌声の清冽さに胸を現われ、最後の”頂き物”へ。

 

 

 真っ赤なワンピースに身を包んだCharaさんが静かに登場。Charaファンでもある私は思わず溜息が漏れる。なんて贅沢なコラボだろう。作詞作曲だけでなく、サウンドプロデュースまでCharaが務めた『やさしいだけじゃ聴こえない』が朴訥としたピアノに乗せ、しっとりとはじまる。初期の頃はCharaの影響も垣間見えるファルセットが特徴的だったが、次第に唯一無二のボーカリストに成長され、近年ではボイトレの鍛錬の賜物でもある力強い低音が印象的な安藤さん。歌詞に肉薄する類稀な表現力で、Charaらしさも残しながらも難しいこの曲を自分のものにされていた。そこに重ねられるCharaの渋みと輝きを増したあのハスキーなウィスパーボイスが絶妙で。祈るように歌われる最後の「虹を誓った」という歌詞に合わせて、虹色の照明が神々しく降り注いでいた。

 

 

 元々歌手なんて考えもしなかった安藤さん。映画の道を志す過程で受けたオーディションで歌った楽曲がCharaさんの『Break These Chain』。その歌声を「君はそのままでいい」と故・小池聰行氏に褒められ、作り手として音楽業界に飛び込み、十数年を越えた。紆余曲折を経てデビューし、初めて所属した事務所がなんとCharaさんと一緒。まさに運命を決定した恩師とも言えるCharaさんと同じステージに立てた感慨で涙でいっぱいの安藤さんに、Charaさんも思わず「もらい泣きしちゃうじゃん」と目に光るものを。「曲を作るのは好きで、ずっと止めどなく作っていたんだけど、ふと曲が書けなくなって」「今までは”曲できたよ”って言って制作を急かしていたくらいのに、いつの間にか締め切りに追われる自分がいて」「そうしてはじまったのがこの”頂き物”という企画だったんですが、音楽を志すようになったきっかけである大先輩であるCharaさんと同じ舞台に立てて、本当に幸せです」と思いの丈を口にする安藤さん。

 

 

 「もしかしてやってくれるのではないか、でもコラボ曲は安藤さんの曲のようだし……」と思っていると、大好きなピアノのイントロを山本さんが奏ではじめる。なんと、Charaの『Break These Chain』のカバーだった。Chara自身も二度もセルフカバーしているほど、お気に入りのこの楽曲。安藤さんのボーカルの静と動を行き来するボーカルがこの曲にぴったりで、小池聰行氏が特別賞を与えた在りし日が目に浮かぶようだった。情熱的に声を張り上げる安藤さんに負けじとCharaさんが確固たる世界観でもってぶつかり合う、見る方も全力で対峙しないと置いて行かれそうな渾身のステージだった。

 

 

 「2人でラジオとかやりたいね」というCharaさんの言葉に夢が広がりながら、最後まで先輩らしく飄々とCharaさんが舞台を後にし、「私ばかり、ありがとうございます」と共演者、競演者への感謝を口にし、また曲が続いてゆく。親友の大塚愛さんから提供された『Touch me when the world ends』は、徐々に加わる楽器陣の膨らみが圧巻。間奏のストリングスセクションが好きなので、酒井さんが華麗に再現してくれて嬉しかった。元キリンジ堀込泰行さん作曲の『夢告げで人』では、アンニュイで妖艶な歌声が耳に心地よかった。昨年末のツアータイトルにもなった凛として時雨のTK作曲『Last Eye』では、収録されたバージョンにはないドラムの音も相まって、ライブならではのダイナミクスが骨の髄まで響いた。安藤さんの楽曲はエンジニアの方々の尽力の賜物で、均一で味気ないMP3プレイヤー向きのMIXでなく、臨場感のあるダイナミクスの大きいMIXがされているので、やっぱりライブで聴くのがいちばんだと再認識した。ラストはお馴染みの真っ赤な照明の元で『聖者の行進』。最もドラマーの個性が出るこの楽曲。あらきさんのドラムはオリジナルの矢部さんに近しいものを感じた。これだけ凄まじいステージを続け、どうしてその力が出せるのかと疑問に感じる程、しなやかな体から繰り出される咆哮のような歌声と、バンドサウンドの爆発的な行進に魂を持って行かれて、本編が終わった。

 

 

 アンコール明けを飾るのはアルバムの最後を飾る、今作で唯一の安藤裕子さん作詞作曲『アメリカンリバー』。電車という地上に根ざした日常と、遥か彼方の空という鳥瞰的な視点、安藤裕子の詞の根底を常に流れる”独り”と、それでも出会いを繰り返すたくさんの”あなた”。「私は生きている 時代を生きていく 私は大丈夫 あなたも大丈夫よ」という歌詞が全てだなと思う。シルクロードを旅し、食の喜びを謳歌し、夏の朝の空気の中、骨までしゃぶりたい程の愛を歌い、時には胸をいっぱいにしながら、虹を誓い、予感だけを煽られながら、たくさんの時代が生まれて消えるけど、それでもこの時代を生きていくのだ。私に、会場中の人々に、今日を、この時代を生き抜いていく力を確かに与える、とてつもない強さで「あなたも大丈夫よ」と歌い上げ、力が突如抜けたように膝から崩れ落ちた姿はあまりにも尊かった。

 

 

 最後は全員が再登場。「普通、アンコールの手拍子ってちょっとずつ途切れて、また誰かからはじまるのに、安藤裕子さんのファンはずっと途切れずに、心を合わせて手拍子をして、安藤さんを待っているのが分かって、とても素敵だなあと思いました」とちょっとずつ紡がれるおみそはんの言葉に、何だか会場中のファンの皆さんが愛おしくなった。「まさに全身で歌うっていう感じで」という大橋さんの安藤さんの歌う姿の形容に、「私もちょっと影響されて」とCharaさん。それぞれが安藤さんへの思いを口にする。「ゲストの方々がそれぞれ持つ熱量がすごくて、リハーサルでも同じレベルで。自分1人のライブだと無意識でペース配分を考えているんだろうけど、全力で立ち向かわないと負けちゃうので常に力を振り絞らなきゃいけなくて」と安藤さん。「思い出した!俺が中学生のとき好きだった初恋の女の子の名前が”あらかわゆうこ”!」という峯田さんの発言にあらきさんと安藤さんが顔を見合わせつつ、「じゃあ歌いますか」という安藤さんの一言から最後は『問うてる』を全員で。山本さんによるイントロも心なしかいつもより重みが違うような。なんとシンタくんまで含むゲスト全員がそれぞれソロパートを担当し、サビは安藤さんを中心になんとも贅沢なハーモニーを響かせていた。自分のパートでなくても口パクをするCharaさん。笑顔でいっぱいのおみそはん。ラストのシンガロングの最中、なんと大塚愛さんが舞台袖から花束を持って登場!気づかない安藤さんの裏で、Charaさんと肩を組んだり、スキマスイッチのおふたりと喋ったり。途中で気づいた安藤さんが本気でびっくりされていたので、完全なサプライズ。安藤さんにマイクを向けられ、シンガロングを担当し、なんと大塚愛さんのお声まで聴くことができた。大塚愛さんも含め、最後はみんなで手を繋ぎ、もう二度と見ることはできないであろう3時間に及ぶ夢のような祭りが終わった。

 

 

 今回の”頂き物”を受けて、安藤さんがこれからどんなお返しをしていくのか、ファンとして楽しみでならない。

 

 

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「セットリスト」

 

 

01.Silk Road
02.ロマンチック
03.ないものねだりのI Want YouC-C-B カバー/w:DJみそしるとMCごはん
04.霜降紅白歌合戦(w:DJみそしるとMCごはん
05.360°(ぜんほうい)サラウンド(w:スキマスイッチ
06.世界をかえるつもりはない(w:スキマスイッチ
07.骨(w:峯田和伸
08.のうぜんかつら(リプライズ)(w:峯田和伸
09.輝かしき日々
10.溢れているよ
11.再生
12.海原の月
13.やさしいだけじゃ聴こえない(w:Chara
14.Break These Chain(Chara カバー/ w:Chara
15.Touch me when the world ends
16.夢告げで人
17.Last Eye
18.聖者の行進


(アンコール)
19.アメリカンリバー
20.問うてる(w:ALLゲスト)

 

 

Key.山本隆二

Gt.設楽博臣

Ba.沖山優司

Dr.あらきゆうこ

Key&Cho.酒井由里絵