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矢野顕子 40th Anniversary ❝ふたりでジャンボリー❞ ゲスト:大貫妙子 @東京グローブ座 04.03(日)

 4月3日『矢野顕子 40th Anniversary ❝ふたりでジャンボリー❞ ゲスト:大貫妙子』に行ってきた。

 

 

 矢野顕子がレコードデビューをしてから40周年ということで、企画された今回のライブ。3月28日から今日4月3日までの間に五夜開催され、1日目から石川さゆり清水ミチコ奥田民生、森山良子、大貫妙子と豪華なゲストが出演。兵庫に住んでいた私も大学入学に向けて3月26日に上京を終え、4月1日の大学の入学式に合わせてかねてから矢野顕子大貫妙子両氏の大ファンである母親も東京に来ることが分かっていたため、少しでも親孝行になればと思いチケットを取った。

 

 

 会場は東京グローブ座シェイクスピアが活躍した時代の舞台を真似た円形劇場で、ステージと客席の距離が非常に近い。ちょうど1階後方左側の、2席が独立した場所が座席だったため、ゆったりと座ることができた。充分演者を視認できる距離。日曜開催ということもあってか、かなり早い5時開演。ほぼ開演時間定刻に、薄く水色がかかったレースの襞に黄緑色の飾りがついたセンスのいいドレスに身にまとった矢野さん登場。

 

 

 ピアノの1音が鳴らされた瞬間、矢野さんのステージが始まり、場を圧倒する存在感に思わず鳥肌が立つ。なんて楽しそうにピアノを弾く人なんだろう!御年62歳だというのに、体の全てがピアノを弾く喜びに弾けながら歌うその姿は、”天才少女”と形容された時代から、全く変わっていないのだろう。途中のMCで「2026年は50周年なので、それまでよろしくお願いします」なんて言って笑いを誘っていたが、本当に70歳になっても80歳になっても、いつまでも矢野さんは天才少女なんだろうなあと思うと、その表現者としての純粋性に感銘を受けずには居られなかった。ひとつ気づいたのは、普通ピアノ弾き語りだと、客席の横を向くしかないのだが、矢野さんは体を大きく客席に向けて、こちらに顔を見せながら歌ってくれる。そこが演者と客席の近さを生む大きな要因なのだと感じた。1曲目の『そりゃムリだ』。喋り声そのままで多様な表情を見せながら呟かれる「そりゃムリだ」の後、最後に歌われる「愛することだけはやめられないんです」という言葉が印象的だった。

 

 

 2曲目は初めて聴いた『中央線』という曲。どうやらTHE BOOMのカバーらしいが、もはや矢野さんの曲だった。短いながらも詩的で、深みのある歌詞。矢野さんのピアノと歌声に乗せられると、とても切なく感じられ、胸に響いた。3曲目は、大好きな曲『ISE-TAN-TAN』。母親がファンなので、幼少期から何となく聴いていたものの、自発的にファンになったのは2013年発売のアルバム『飛ばしていくよ』から。そのアルバムの中でも特に好きな曲の演奏だったので、心がざわめいた。両親への気持ちを歌う少女の「お金があっても無くても 買ってあげたい人がいる」。恋人への思いを歌う女性の「わたしのこと ずっと 見てくれたんだね あなた」。矢野さんの歌声で歌われると、何だかどうしようもなく胸がいっぱいになって涙が止まらなかった。矢野さんは台詞のような部分の歌詞をかなり自由に、語尾や口調を変えて歌われていて、とても自然で。40年も、表現者としてピアノと歌と生きてきた者の底力というか、圧倒的力強さというか。「ISE-TAN-TAN」と歌う部分はもはやCDとは別物。さすがジャズ畑出身で、決して同じ演奏を二度しない矢野顕子の真髄を見た。

 

youtu.be

 

 伊勢丹従業員の伊勢丹愛に溢れたPVもとても素敵なのでぜひ見てみてください。

 

 

 「昔、糸井重里のほぼ日に”矢野顕子をほめる”という企画があって、色んな人に褒めてもらいました。”あの曲いいよね”とか”こういうところが好きだよね”とか言ってもらって、そりゃあ本人は良い気持ちで。で、お返しがしたいと思って書いた曲で、当時は断片だったものをまとめました」と言って歌われたのは新曲『ほめられた』。なんて素直なタイトル!客席からも思わず笑いがこぼれる。シンプルな言葉づかいで、率直に思いを表現する歌詞。歌詞単体で見たらなんてことない言葉の羅列も、矢野さんの表情豊かな顔と、表情豊かなピアノ、純真さを体現するような歌声に乗せられると、その意味がただただ輝きだす。思わずこっちまで嬉しくなってくる。

 

 

 何だかどこかで聴いた曲だなあと思いながら記憶を探っていると、大貫妙子の『突然の贈りもの』だと気づいた、5曲目。2曲目でも感じたが、曲の持つ感情を引き出すことにかけて矢野さんの右に出るものはいない、と再確認。今回のライブに当たって、大貫妙子に向けた矢野顕子の言葉は「わたしは大貫妙子さんのことを、曲一つで映画一本作り上げる女、と勝手に命名した」だったが、まさにその通りの物語性のある詞を堪能し、映画を観終わったような感覚に包まれた。

 

 

 「随分昔の曲で何度も歌っているから、もう矢野さんのものにしていい」なんて言いながら大貫妙子、登場。黒く縁取られた白いレースの仕立てのいいワンピースで、胸元には白い花のブローチが美しく鎮座。矢野さんとはまた別のベクトルでかわいらしい大貫さん。とても63歳には思えない。前述の話を矢野さんと繰り広げる中、矢野さんのカバーによる『突然の贈りもの』を「相変わらず変なところで繰り返すなあと思った」という大貫さんの言葉に場内爆笑。「大貫さんの中でも代表曲とされている曲だけど、やっぱり歌詞に難しい言葉がなくて、シンプルだからかも」と矢野さん。そこに目が向くあたり、確かに矢野さんの歌詞は”生”の言葉が多いような気がする。

 

 

 そのまま楽曲の話へ。「1曲1曲に人格みたいなものがあって、ちょっとずつ距離を縮めていく。次はこの曲、その次はこの曲、みたいにとっかえひっかえすることはできない」と矢野さん。大貫さんの「矢野さんもそうだけど、私も曲が多くて、ライブでは一部の曲しかできない。埋もれているものもあって」という言葉に対する「いらないものがあったらください!トラックで引き取りに行きます」という先の話は何だったんだというような矢野さんの言葉に笑った。

 

 

 山弦の『GION』という曲に、大貫さんが歌詞をつけたという『あなたを思うと』という曲を、贅沢にも大貫さんと矢野さんのデュエットで。「でももう自分の曲みたいなもんでしょ?」という矢野さんの言葉に、「あなたもそういうの多いでしょ」と大貫さん。その後、「今じゃもっと図々しいかも」「もっと謙虚にならなきゃ」と言って笑いながら歌われたのは大貫妙子さんの『横顔』という、恋する乙女の健気な心情が歌われる曲。

 

 

 89歳にして現役の歌手トニー・ベネットの話をしてから、トニー・ベネットの『The Playground』のカバーに。この曲は大貫さんのソロで歌われ、矢野さんは伴奏に徹していた。幼少期の思い出を訥々と綴る歌詞から、お互いの幼少期の「Playground」を話し合う。矢野さんは青森出身というだけあって、家から学校までスキーで登校した話などをされていた。大貫さんの昭和20年頃、杉並区は一面レンゲ畑が残っていて、ザリガニ捕りをしていたという言葉にびっくり。「昔に戻りたいと思っても、もう当時住んでいた町には面影がない」「東京には故郷がない」という言葉に、兵庫の田舎から上京したばかりの私は色々と考えさせられた。また、大貫さんの「友だちがいなかった、レース編みやクロスステッチが友だちみたいなものだった」という話に矢野さんが何故かと問いかけると「協調性がないからかな」と大貫さん。「あなたもそうでしょう?」という発言には笑った。

 


 続いて『虹』という大貫さんの楽曲をデュエット。「大貫さんの歌詞は日本語が美しい」という話から、歌詞の話に。大貫さんがカバーしたいと思う基準はやはり”歌詞”らしい。「”てにをは”だけでも変わる」と大貫さん。例えば「語尾が”だぜ”だったとして、女の人は”だぜ”なんて基本的に言わないでしょう。だから”だわよ”とかに勝手に変えちゃう」「私はもう好き勝手やってますよ」という矢野さん。

 

 

 「検閲…検閲じゃないか(笑)、そんなに歌詞を変えて色々と大丈夫なの?」という大貫さんに、矢野さんは「分からないけど、何か言われたことはない」「小田和正さんには”随分好きにやっているようだね”と飽きれながら言われたけど(笑)」。そして「”矢野さんなら”ってなりそうだもんね」と大貫さん。

 


矢野さんは歌詞に共感できないと「私はそんなこと思わないけどなあ」と思って歌えないと、例え話に「よく”嘘でもいいから愛してるって言って”みたいな歌詞があるけど、嘘じゃ嫌よ」と挙げながら話す矢野さん。「私は歌詞が気に入らないと、言葉を変えるとかよりも、自分で作った方が早いと思う、と大貫さん」。「最近の人は鼻濁音(鼻に抜けて発音されるカ行濁音)が出せない」という話になったときに、昔あえて「私”が”」と歌ったところ、「そこは、私”ンが”よ」と言われたことを思い出した大貫さん。

 

 

 先程の「曲に人格がある」「共感できないと歌えない」という話、また歌詞に並々ならぬ思いがあることが分かり、だからこそ矢野さんも大貫さんもかなり特徴がある、癖がある声質なのにちゃんと言葉が耳に届き、情景が頭に思い浮かび、ただの歌詞よりも胸に響くのだろうなあと思った。当たり前のことだが、本人の気持ちが入っているのだ。だからカバーに重みがある。そこが大きいのだろう。

 

 

 という話の中で、「この年になると歌えるかなと思った」と言い大貫さんがひとりで歌った『聞かせてよ、愛の言葉を』という有名なシャンソンの楽曲の中で、「聞かせてよ (中略) その言葉「愛す」と (中略) たとえウソでも良い」という歌詞があったのには笑った。矢野さんも意図したわけではなかったらしいが、大貫さんは少しビクッとしていたらしい。「でも10代の女の子が言うのと、60代の女性が言うのとでは、また言葉の意味も変わってくるでしょう」と大貫さん。年齢と共に歌える曲が変わってくる、というのは何とも面白いなと思った。曲もまた、老いてゆき、深みが増してくるのだ。

 

 

 本編最後に歌われたのは矢野さんの大名曲『ひとつだけ』。母が大好きな曲だと知っていたので、涙が止まらなかった。ライブの途中で、大貫さんがお米を作られているという話から、田植えの話が続き、大貫さんは「田植えのモードになっちゃって、歌手のモードに戻すのが大変」と仰っていた。対して、矢野顕子はMC中にも気がつけば即興でピアノを弾いていて、話し声と歌声の境界もほとんどない。”歌”と”日常生活”に区別がなく、矢野さんの日常そのものが歌なのだと、改めて思わざるにはいられず、またその尊さ、その稀有な存在に感動を覚えた。大貫さんのウィスパーボイスでありながらも、決して重たくなく、まろやかな朝靄のような歌声と、矢野さんの猫が喋っているかのような高音のかわいい声から、往年のシャンソン歌手のような力強い低音の唸り声のハーモニーは本当に絶妙だった。

 

 

 途中で腹筋補助器具「ワンダーコア」の話で盛り上がったり、「世間ではワイン片手にアンニュイに本を読んでいる、みたいなイメージがあるけれど、日本家屋に住んでいるし、最近は日本酒の方が好きだし、田植えもする。おまけに落ち着きがなく、常にちょこまかと動き回っている」と大貫さんのイメージが覆されたり。2人の掛け合いがとても面白く、何だか大人だけど少し天然なお姉さんの大貫さんと、自由奔放で純粋な妹の矢野さん、というような感じだった。

 

 

 アンコールで、大貫さんが作詞、矢野さんが作曲したという共作曲かつ、薬師丸ひろ子さんへの提供曲「星の王子さま」を歌い、「また共作しよう」と2人と約束した後、大きな拍手の中、大貫さんが舞台を後にする。「何も考えずに、誰かのために弾くのではなく、技術を誇示するだめでなく、ただ自由に弾く。それが私のミュージック、音楽の源」だと言って、最後にイングランドの最も古い民謡「グリーンスリーブス」を主題に、10分ほど即興された演奏は、まさに矢野顕子の音楽、矢野顕子そのものだった。

 

 

 思えばライブ中、ずっと泣いて、ずっと笑っていたような気がする。矢野顕子という大きな才能の純粋な塊に触れられただけでも大変なことなのに、おまけに大貫妙子というこれまた優れた才能を持つ女性シンガーソングライターまで味わえ、これ以上ない親孝行になった。これから少なくとも大学4年間はこちらでひとり暮らしをすることになるが、私も母も、忘れられないライブに、思い出になった。特にグッズを買うつもりはなかったのだが、アンケートを書いた後、マンガ家浦沢直樹が書いた40周年記念イラストが描かれたクリアファイルを買い、母にプレゼントした。ついていたステッカーは私がもらった。ちょうど明日は母親と私の誕生日。姉とはYUKIのライブに、父親とはサマソニに、そして母親とは今回の矢野顕子のライブ。家族とのライブでの思い出が、これで全員分集まった。きっと、何十年経っても、忘れられないライブの思い出と共に、家族のことを思い出せるのだろうと思いながら、胸をいっぱいにして、眠りに就くことにする。

 

 

セットリスト

 

01.そりゃムリだ
02.中央線
03.ISE-TAN-TAN
04.ほめられた
05.突然の贈りもの

 

大貫妙子と共に)
06.あなたを思うと
07.横顔
08.The Playground
09.虹
10.聞かせてよ、愛の言葉を
11.ひとつだけ

 

EC1.星の王子さま
EC2.(グリーンスリーブス)