2015年 ベスト アルバム 30枚(邦楽・洋楽)

 ベストアルバムの文化は終わった。

 

 

 Twitterのタイムラインを眺めていると、そんな文言をしばしば目にする。今回この記事を書くにあたって、過去の自分のツイートを遡っていると、2013年は1年で下記の数だけアルバムを聴いていたらしい。今年は受験があったということもあるが、アルバムという単位では187枚も到底聴いていない。確かに、新譜を大量に聴いて、順位づけて、SNSで発信するという文化は瀕死に近いのかも知れない。しかし、しかしである。例え分母が少なかろうが、胸が震える、何度も何度も聴きたくなるアルバム、曲に出会えたのは今年も変わらない。私は、その素晴らしい音楽を世間に広めたいし、感動を共有したい。別にアクセス数が多いブログでもないし、影響力のある人物でもないが、一介の音楽マニアとして今年もベストアルバムを発表しようと思う。しかし、順位をつける、というのはもうやめたい。邦楽・洋楽、アルバム・単曲関係なく、好きな音楽をただただ垂れ流す記事にしたい。

 

 

 

 

 

 

 参考までに2013年、2014年のベストアルバムを載せておく。

 

 

2013年 洋楽ベストアルバム10

 

01.Young Dreams / Between Places
02.Sigur Rós / Kveikur
03.Julia Holter / Loud City Song
04.Kodaline / In a Prfect World
05.Steven Wilson / Raven That Refused to Sing (and Other Stories)
06.These New Puritans / Field of Reeds
07.Tim Hecker / Virgins
08.BOY / Matual Friends
09.Iron & Wine / Ghost on Ghost
10.Laura Marling / I Speak Because I Can

 

 

2013年 邦楽ベストアルバム10

 

01.安藤裕子 / グッド・バイ
02.清竜人 / WORK
03.笹川美和 / 都会の灯り
04.テスラは泣かない。 / Andreson
05.きのこ帝国 / ロンググッドバイ
06.湯川潮音 / 濡れない音符
07.コトリンゴ / ツバメ・ノヴェレッテ
08.People In The Box / Weather Report
09.Marihiko Hara & Polar M / Beyond
10.青葉市子 / 0

 

 

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 毛玉 / 新しい生活

 

 蓮沼執太やクチロロらを輩出したWEATHERレーベルより、 新たな才能、「毛玉」。実験音楽や即興音楽を中心に活動していた黒澤勇人を中心に2012年に結成された歌モノバンドから1stアルバムを。

 

 厳密には昨年の12月24日発売なのだけれど、聴いたのは今年初めからなので、入れました。ある古びたマンションのベランダが俯瞰で写されたジャケットがすごく好き。電車に乗って、ただ漫然と外を眺めていると、ベランダに干してある洗濯物だとか、カーテンの風合いだとかで、人の生活、生きている証左が垣間見えて何だか胸がいっぱいになる。このアルバムもそんな、アルバムです。

  

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 サウンド的にはAmazonの商品説明の「空気公団キセルのようなやわらかな音楽性と、 同世代のインディーバンド、森は生きている、シャムキャッツ、ミツメ、吉田ヨウヘイgroupらとも感じる共時性サウンドプロダクションの面では、ジム・オルークやシカゴ音響派周辺の背景も聴くことができる」が的確。

 

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グラウンドには花ざかり 風船たくさんとんで
屋上からトランペット
文化祭は何の問題もなく終わってゆく

 

祭りの後には音楽終わった様
夢からさめたようなそんな顔して急いで帰り道を歩いた

 

貴方のすべてが変わるような気がしている帰り道なんです
いつものように笑えれば ほらね世界まわりだすはずだよ

 

調子の悪い自転車 じゃあここでお別れ
点滅する街灯
ペダルを踏み出しギシギシと時は進む

 

ふりかえれば星のような風が吹いていたからね
いつものように帰れないからそっと寄り道をしよう

 

春はたった一度のこと
春はたった一度のこと
少し雨が降ってきた
春はたった一度のこと

 

(毛玉「帰り道」より引用)

  

 

 Rinbjö / 戒厳令

 

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 日本発売は「毛玉」と同じく12月24日発売。国際的に活躍する女優・菊地凛子菊池成孔のプロデュースのもと、新進気鋭のトラックメイカーの手でミュージシャンデビューしたのである。個人的趣味からは大きく外れた音楽なのだが、何度も聴いているうちに、菊地凛子の緩いラップがハマってしまった。もうちょっと大衆に寄せていれば、今の音楽シーンを水曜日のカンパネラの独擅場にすることなく、Rinbjöの名前もサブカル界隈でもてはやされたはずなのだが、いかんせんマニアックすぎた。Brigitte Fontaineの「ラジオのように」を想起させるポエトリーリーディングが印象的な「魚になるまで」など、犬の散歩でもしながらボーっと聴くにはもってこいのよく分からないアルバムである。あと、このジャケットは明らかにアレですよね……。

 

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 おとぎ話 / CULTURE CLUB

 

 1月14日発売。「毛玉」から東京のインディーシーンの流れで、「おとぎ話」。個人的な趣味の範疇からは少し外れるのだけれど、とにかくMVと音楽の相乗効果が素晴らしくて、映像的な面も含めて挙げました。

 

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 ジャケットも質素だけれど、センスが良くて好きです。最近のインディーバンドはアートワークのセンスが抜群で、ついついジャケ聴きしてしまう。

 

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Björk / Vulnicura

 

 1月20日発売。ビョークに公私共々影響を与えた現代美術家マシュー・バーニーとの離婚の傷、そして苦しみからの再生が静謐さの中で暴力的に歌われる、本人曰く「完璧なハートブレイク作」。セクシュアルな要素を想起させる、胸元が大きく空いたジャケットが印象的(ろくでなし子かよ!とツッコミそうになった)。"赦しの象徴"らしいヘッドピースは、日本人の武田麻衣子によるもの。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課にて帽子デザインを専攻した後、現在はISSEY MIYAKEにてアクセサリーデザインを担当している彼女。

 

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 「lionsong」のMVで、細部まで堪能することができる。

 

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 思うに、近年のビョークは分かりにくかった。全曲、全てが人間の声だけで構成された「Medúlla」。宇宙科学、生命科学を音楽という形に落とし込み、新たな楽器まで大量に作ってしまった「Biophilia」。"さすがビョーク!"と唸らせてくれる前衛さではあるが、日常的に聴く音楽かと訊かれれば、否定せざるを得なかった。「Vulnicura」は久しぶりの"メロディ復活アルバム"ともいえる。

 

 ビョーク本人が手がけたエモーショナルなストリングスセクションに、カニエ・ウェストやFKA twigs等との仕事でも話題の新進気鋭のエレクトロニクス・アーティスト「ARCA(アルカ)」の攻撃的なビート。

 

 なかでも歌詞が壮絶だ。

 

「わたしの中の人類学者がこっそり忍び込んできて、その感情を出来る限りみんなにシェアしようって決めたの。最初は失恋感情に耽るだけの独善的なものにならないかって心配したんだけど、このプロセスは誰にとっても普遍的なことなんじゃないかって感じたの。だから、この歌たちが、そうした失恋のプロセス、つまり傷つくっていうことと、傷が癒えていくっていうことが、どれほど生物学的に自然なことかって証明することができて、それが誰かの助けや支えになればいいと願ってるの。精神的にも肉体的にもね…。(失恋のプロセスには)頑固な時計がくっついてるのよ。でも必ず出口はあるの。何かを失ったら必ず別の何かが現れる。」

 

 と語るように、歌詞カードにマシューと別れて何ヶ月後に書いた詞であるかが、曲の前にサブタイトルとして明記されている。離婚後2ヶ月後に書かれた10分越えの大作「Black Lake」は特に凄惨。

 

Our love was my womb
But our bond has broken
My shield is gone
My protection is taken
I am one wound
My pulsating body
Suffering being

 

私たちの愛は子宮にあった
赤い糸が途切れてしまった今
盾は消え失せ
私を守っていたものは剥ぎ取られた
私はひとつの深い傷で
脈打つ身体が
苦しみにもがいている

 

My heart is enormous lake
Black with potion
I am blind
Drowning in this ocean

 

私の心は深い深い湖
毒で濁っているの
視力を失い
この波の中で溺れている

 

My soul torn apart
My spirit is broken
Into the fabric of all
He is woven

 

私の心は引き裂かれ
魂は壊された
全ての布地の中には
彼が織られている

 

You fear my limitless emotions
I am bored of your apocalyptic obsessions
Did I love you too much
Devotion bent me broken
So I rebelled
Destroyed the icon

 

あなたは私の箍が外れた感情を恐れ
私はあなたの悲観的な強迫観念にうんざりするの
私はあなたを愛しすぎたのかしら
あなたへの信仰心は私をひん曲げた
だから私は反逆者になり
あなたという偶像を破壊した

 

I did it for love, I honored my feelings
You betrayed your own heart
Corrupted that organ

 

私は愛のためにそうしたのよ
私は自分の感情に忠実だった
あなたはあなた自身の心に背いたの
その性を堕落させた

 

Family was always our sacred mutual mission
Which you abandoned

 

家族はいつも私たち互いの神聖なる使命だった
それをあなたは見捨てたの
見捨てたのよ

 

You have nothing to give
Your heart is hollow
I'm drowned in sorrows
No hope in sight of ever recover
Eternal pain and horrors

 

あなたが与えてくれるものなんて何もないわ
あなたの心は空っぽ
私は悲しみに打ちひしがれ
回復の兆しは全く見えず
永遠の痛みと恐れがあるだけ

 

I am a glowing shiny rocket
Returning home
As I enter the atmosphere
I burn off layer by layer

 

私は煌々と輝くロケットで
帰還してゆくの
成層圏に入るにつれて
皮膚の1枚1枚ずつ
燃え尽きてゆく

 

Björk「Black Lake」より引用、和訳:はたゆ

 

 拙い訳ですみませんが。(「Into the fabric of all He is woven」は合っているのか確信がない。大体の伝えたいニュアンスは分かるのだけれど、どこまで意訳してよいものか。)初期Coccoを彷彿とさせる、メンヘラという言葉で片付けられない程、深い深い愛と喪失の歌。MVがまたすごい。

 

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 アイスランドの豊かな自然のもと、深い洞窟の中で、そして広大な大地の上で、10分間、痛みを表現し続けるビョーク椎名林檎も舌を巻くであろう巻き舌、7分30秒頃の「パッション屋良かいな」とツッコミたくなる胸叩き、「I burn off layer by layer」という歌詞を体現したラストの衣装といい、やっぱりビョークはすげえやと思わせられるMV。

 

 ちなみにビョークさん、マシューとの間に娘を授かった年でもある2002年、こんな歌を書いています。

 

Who would have known
That a boy like him
Would have entered me lightly
Restoring my blisses

 

誰に予想できただろう
彼のような男の子が
そっと私の中に入ってきて
私の喜びを回復してくれるだなんて

 

Who would have known
That a boy like him
After sharing my core
Would stay going nowhere

 

誰に予想できただろう
彼のような男の子が
私の核を共有した後
どこにも行かずに
留まってくれるだなんて

 

Who would have known
A beauty this immense
Who would have known
A saintly trance
Who would have known
Miraculous breath
To inhale a beard
Loaded with courage

 

誰に予想できただろう
これほどまでに広大な美しさを
誰に予想できただろう
清らかな恍惚を
誰に予想できただろう
勇気で充ち満ちた顎鬚を吸い込む
奇跡の呼吸を

 

Who would have known
That a boy like him
Possessed of magical
Sensitivity
Who would approach a girl like me
Who caresses cradles his head
In her bosom

 

誰に予想できただろう
魔法のような感受性を持った
彼のような男の子が
私のような女の子に近づくだなんて
私は彼の頭を胸の中で
揺籃のように優しく愛撫する

 

He slides inside
Half awake, half asleep
We faint back
Into sleephood
When I wake up
The second time
In his arms
Gorgeousness
He's still inside me

 

彼が中まで滑り込む
半分起きていて
半分眠っている
私たちの意識は再び遠退いてゆく
二度目に
彼の腕の中で目覚めたとき
なんて素晴らしいのかしら
彼はまだ私の中にいる

 

Who would have known
Who would have known

 

誰に予想できただろう
誰に予想できたのだろう

 

A train of pearls
Cabin by cabin
Is shot precisely
Across an ocean

 

真珠の電車が
一両ずつ
正確に放たれてくる
海の向こうから

 

From a mouth
From a
From the mouth
Of a girl like me
To a boy
To a boy
To a boy

 

口から
私のような女の子の口から
男の子へ
男の子へ

男の子へと

 

BjörkCocoon」より引用、和訳:はたゆ

 

 「好きなMVを3つ挙げろ」と言われたら、安藤裕子の「はじまりの唄」、Coccoの「花柄」、そしてBjörkの「Cocoon」を迷わず挙げるくらい、好きなMVなのですが、その話はまた今度。アカデミー衣装デザイン賞、マイルス・デイヴィスのアルバム「TUTU」のジャケット(めっちゃカッコイイ)のデザインでグラミー賞紫綬褒章などを受賞している日本の故・石岡瑛子さんが手掛けてて、前衛的でありながらも古来から続く日本の美を湛えた官能的なビデオで、本当に素晴らしいです。その話はまた今度。

 

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 「誰に予想できただろう 魔法のような感受性を持った彼のような男の子が 私のような女の子に近づくだなんて」なんて恍惚としながら歌っていたビョークさん。13年後、「Corrupted that organ(直訳:そのペニスを堕落させた)」と鬼気迫る仕草で歌っているとは、いやはや、人生とは諸行無常であります。

 

 ビョークと言えば、そのアートワークの芸術性の高さでも有名ですが(実際日本人歌手のアートワークの元ネタはビョークであることが多い)、今回も相変わらずすごいです。ビョーク自身の口内から撮影された「Mouth Mantra」を観ていると「美ってなんだろうな」と自分の美的感覚を根本から揺るがされます。

 

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 ラテン語で傷を意味する「Vulnus」と、治癒や回復を意味する「Cure」から作られた造語である「Vulnicura」を聴いて、世の男性陣は震え、女性陣は共感してください。

 

 

 Viet Cong / Viet Cong

 

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 1月20日発売。ググっても日本語であまりヒットしないバンド情報ですが、1件だけあるAmazonのレビューが詳しかったので、気になる人はそれ見てください。

 

 リード曲なのだろうか。退廃的な詞にロックな音像、激しいボーカル、意味深な狂気さを孕むMVが良い相乗効果、生んでます。でもなんか、どれもちょっと絶妙にダサいんですよね。詞も、アレンジもボーカルもMVも。その抜け感が親しみやすくて、好きです。

 

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 下の曲のイントロをヘッドフォンで爆音で聴くと最高に気持ち良くて、一番ヘビロテしてました。 

 

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 Natalie Prass / Natalie Prass

 

 1月27日発売。「ナタリー・プラスはバークレー音楽大学中退後、マシュー・E・ホワイトが運営するレーベル、Spacebombと契約。70年代後期のビック・バンドやジャズを感じさせる音、80年代R&Bの洗練されたソウル・ポップの影響を感じさせる至極の9曲が詰まったデビューアルバムを完成させた」とのこと。新人らしいです。なんか、全体的に肩の力が抜けていて、例えばビョークのアルバムとかを聴いた後、箸休めに聴くとめちゃくちゃ癒されます。

 

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 どうでもいいですが、この人の顔めっちゃ好きです。MVも低予算だけれど、ポップでかわいくて、何度も見てしまいます。小物のチョイス!ジャケットはシックな感じでまたよろしい。

 

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 安藤裕子 / あなたが寝てる間に

 

 1月28日発売の8thアルバム。この人は本当にアルバムを作るのがうまい。「そして父になる」の音楽でアカデミー賞を受賞された、初顔合わせとなる松本淳一アレンジの映画音楽のような1曲目「森のくまさん」からポップな楽曲が続き、激情的な"スカ"曲「RARA-RO」、エモーショナルな「世界をかえるつもりはない」とグイグイ深みを増してゆき、名バラード「レガート」からは打って変わって内省的なバラードが続き、ラストはまた映画音楽のような壮大なアウトロが印象的な「都会の空を烏が舞う」で幕を閉じる。文句なしの名盤です。お願いだから聴いて!

 

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 安藤さんの歌詞は、安藤さんが好きな理由の結構な割合を占めているのですが、今作では珍しくフェミニンな心情が歌われる「73%の恋人」と「大人計画」が好き。

 

黄昏ていく私をどこかへ連れて行って逃げてね
手は何か掴むため開かれたまま待ってる
夜は明けないよう務めて二人を送り出す

 

きっと明日になってしまえば 出会うこともなくなるから
刹那の夢をここで叶えて欲しい
ままごとみたいでもそれが全て
塗りつぶし 目を閉じて 誰も見ないように

 

薄れていく命を
貴方に重ねて見てたの

 

呑まれそうな光も
宇宙の終わりのように
怒りを全て静めて
優しく手を伸ばす

 

会いたい恋をしている 君に恋をしている
まだ心の隅で湧き上がる想いを笑わないでいてね
「それが全て」
目を閉じて そばに来て 誰も見ないように

 

きっと明日になってしまえば 出会うこともなくなるから
刹那の夢をここで叶えて欲しい
おとぎ話の中連れて行ってね
目を閉じて 触れてみて 誰も見ないように

 

安藤裕子「73%の恋人」より引用

 

 

心の奥に眠ってた
私の幼い頃の夢が 近頃少し思い出され
気づいたことがあるの

 

あなたのような人と 結ばれるってこと

 

遠い過去に置いてきた
点と点が線になる

 

大人になるってこと
僕らは 「諦めること、忘れること」と
知ったように言うけど

 

私なりにたどってきた道に
あなたはこうしているじゃないの

 

見上げる背丈もちょうどいいから
見送る時もキスをあげる
脱ぎ捨てた洋服を拾い集めて
歩くのは嫌だ

 

二人でいるってことを
探し集めたら
もっと

 

あなたの持つ仕草 一つ一つ好きになる

 

大人になるってこと涙で
辛くて哀しい寂しいものと
言ってしまえばいいけど
久しぶりに泣いたこの涙
嬉し泣きにして

 

歪んだ景色も美しい愛の記憶でしょう?

 

大人になるってこと
僕らは 「諦めること、忘れること」と
知ったように言うけど

 

私なりにたどってきた道に
あなたはこうしているじゃないの

 

安藤裕子大人計画」より引用

 

 LIVEレポは下をどうぞ。

 

hatayu.hateblo.jp

 

 

 Dan Deacon / Griss Rifeer

 

 2月24日発売。今年2月28日に書いたブログでも紹介しました。

 

hatayu.hateblo.jp

 

 アメリカのエレクトロニカ・アーティストのDan Deacon。女性ヴォーカルのように聴こえる声も、全てダン自身のものらしく、彼の声を加工しているそうな。「初めてのチュウ」方式。電子音のおもちゃ箱と形容しようか、とにかくポップ。

 

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 そしてMVがめちゃくちゃかわいい!!少し、きゃりーぱみゅぱみゅとかと相通じるものがあるような気がする。教育テレビの幼児番組で使えそうなMV。

 

 ……と思いきや、めちゃくちゃ前衛的なMVもあって、ふり幅がすごい。さっき紹介したViet Congよりよっぽど狂気を感じる。

 

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 Chara / Secret Garden

 

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 3月4日発売。デビュー24年目、15作目のオリジナルアルバムにして、韻シストや、agraph(牛尾賢輔)、THE NOVEMBERSが参加している。他にもCurly Giraffe(高桑圭)、mabanua、キタダ マキ、朝倉真司、楠均、名越由貴夫、Kan Sano、類家心平、権藤知彦、成田真樹、OLIVIA BURRELLらが参加、エンジニアは美濃隆章(toe)など。この人は本当に古びず、いつも新しい音楽をしているのがすごいと思う。今作は作詞作曲だけでなく、サウンドプロデュースまで本人が行っているそうな。温かみのあるフォーク&エレクトロニカサウンドはいつものまま、ソウルやR&B的な要素がいつもより強い印象。にしても菊地凛子といい、ビョークといい、ジャケットに性的メタファーを持ち込むのが女性歌手の間でブームなんだろうか……。

 

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 人気アートディレクター・吉田ユニが手掛けたMVが最高にかわいい「恋文」は間奏のシンセが堪らん!

 

 8ミリフィルムに切り取られた、自宅のピアノで歌うシーンや愛犬と散歩するシーン、そして愛する子供達の幼い頃の映像などのCharaの私生活、日常が愛情たっぷりに見られる「恋は目を閉じて」は歌詞を読みながらじっくり聴きたい1曲。

 

あなたの気休めじゃ
あるのが退屈じゃ
はじめから苦労 嘘ばかりの人
終わりのある恋なんかにさ

 

飛び込めるわけない
そのあらわな目の奥が 知りたかったのも
この私の罪?
恋は目を閉じて 確かめていくのよ

 

無駄な恋などない
冒険家だよ
ママは嘘言ったっけ?

 

欲張りな子じゃない ひみつの不安
純情ぶってもいないよ
だけど、ネバーランド?に 忘れちゃうよ?
子供のままじゃ

 

このままじゃ

 

恋は目を閉じて

 

あるのはいい加減 ひみつの不安
あなたに似合う様な
甘い女の子 会えるはずよ
恋は目を閉じて

 

彼は答えを 音で探す音楽家
目を閉じたのは 私だけなんだ

 

敵わない魔法
敵わない魔法
敵わない魔法
敵わない魔法

 

君の美しさは 混沌としてるから

 

敵わない魔法
敵わない魔法

 

本当は、人間の本物の美しさを知る人だって思ってるよ

 

Chara「恋は目を閉じて」より引用

 

 

  ももいろクローバーZ / 青春賦

 

 3月11日発売。ここらで変り種を。非常に構成のしっかりしたよくできたJ ポップで、もうすぐ高校卒業という状況も相まって、発売時期からはだいぶ離れているが年末にかけてよく聴いていた。コード展開が一筋縄ではいかず、アレンジも妙にハイセンスだなと思っていると、どうやら編曲は冨田ラボこと冨田恵一さんとのことで。ラストのDメロ「吹く風は まだ寒く」のところが堪らなく好き。彼女たちの個性豊かなボーカルもこの曲によく映えている。

 

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 Laura Marling / Short Movie

 

 3月23日発売。イギリス出身の女性SSW ローラ・マーリングの5thアルバム。私が大好きなアコースティックサウンド。荒野を駆ける馬の躍動に呼応するように、激しさを増すアコギが最高に気持ちよく、カントリー風味のストリングスが彩りを加え、ローラの清涼感のある歌声がどこまでも伸びてゆく「Short Movie」は必聴。近頃、日本ではギター弾き語り女性歌手が人気だが、日本でもとても受けやすい歌手だと思う。

 

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 ジャケットもシンプルでいい。

 

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 クラムボン / Triology

 

 3月25日発売。今年結成20周年を迎えたクラムボン、5年ぶりとなる9枚目のアルバムである。クラムボン流の祭囃子とも言える「アジテーター」、最高にポップな「Rough & Laugh」、扇情的なジャズサウンドにある男の独白が乗る実験的な「Scene 3」、菅野よう子とのコラボレーションが話題となったシングルの別バージョン「yet」は痛切な歌詞とテクニカルな転調が胸に響く。そして何より、「Re-ある鼓動」。クラムボンお家芸、リアレンジ。「ある鼓動」の原曲は単調な重たいピアノ伴奏がどうにも好きになれなかったのだが、なんとまあ推進力のある、アルバムの締めに相応しい爽やかなアレンジにもはや全く別の曲のように生まれ変わっていて、大好きな曲になった。離別を描いたドラマティックな楽曲もあるものの、”光”のアルバム。

 

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 Ryley Walker / Primrose Green

 

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 これまた美しいジャケット。3月31日発売、ライリー・ウォーカーの2ndアルバム。12歳の時にパンク・バンドを組んだのが音楽活動の始まりだという彼は、シカゴのエクスペリメンタル、ノイズ・ミュージック・シーンで活動していた時期もあるという。無造作のようにも聴こえるピアノのバッキング、どこかスペインの風も感じるアコギ、遊牧民のようなライリーのボーカルが心地いいアコースティックサウンド。オススメです。

 

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 Sufjan Stevens / CARRIE & LOWELL

 

 3月31日発売。「ストーリーテリングを得意とするアメリカ・ミシガン州出身のソングライター。自伝と宗教的な幻想と土地の歴史を絡ませながら、スケールの大きなフォーク・ソングを作り出す。レコーディングでは、複数の楽器を自らこなし、全ての楽器の要素を素敵に組み合わせて奏でられるメロディーが特徴」であるスフィアン・スティーヴンスの7thアルバム。「タイトルの"Carrie & Lowell"とは、精神疾患に苦しみ家族の前から姿を消した母と、Sufjanの実質的な育ての親であり、現在はともに Asthmatic Kittyレーベルを経営する継父の名前」であり、その母が2012年に亡くなったことが本作のテーマだそう。寡黙なフォークサウンドのもとで、吐露される母親への愛憎。1曲だけを抜き出すということができない、1枚を聴くことで初めて理解できるその思い。ぜひとも歌詞を読みながら、各々の母親に思いを寄せながら、聴いてほしいアルバム。

 

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 アルバムを聴いた後、ふとジャケットを見ると何だか泣きそうになった。

 

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 Toro y Moi / What For

 

 4月7日発売。上記にリンクを貼った2月末のブログでも紹介した、トロ・イ・モア。間違いなく今年よく聴いた洋楽曲トップ3に入るであろう「Empty Nesters」。チル・ウェイヴの楽曲。もちろんMVがかわいい。

 

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  花澤香菜 / Blue Avenue

 

 4月22日発売。坂本真綾豊崎愛生に代表されるように、声優とサブカル作曲陣は相性が良いのだが、その中に突如として割り込んできた花澤香菜の3枚目。80年代のアイドルの楽曲をはっぴいえんど界隈が支えていたのと、同じ文脈で語れるんじゃないかな。声優と渋谷系(という言葉ではくくれないのだが)界隈の作曲陣。Win-Winの関係。

 

 ROUND TABLEの北川勝利、近頃椎名林檎と癒着している村田陽一Studio Apartment、後述する新進気鋭の天才・北園みなみ、安藤裕子でもお馴染みのマニュエラの宮川弾、先程紹介したクラムボンのミト、相対性理論やくしまるえつこ、元Cymbals矢野博康、1980年代に日本でもヒットしたイギリスのデュオ・Swing Out Sister、プロデュースした歌手は枚挙に暇がない中塚武NONA REEVES奥田健介、作詞は岩里祐穂……「もう分かった、もう分かったから!!」と言いたくなるような、音楽オタク垂涎の鉄壁の布陣である。変に解説しなくても、上記の制作陣を見てもらえば、分かる人はもう分かるだろうし、分からない人はハマらないでしょう。ということで、私は「I ♥ NEW DAY!」「Nobody Knows」「こきゅうとす」「Night and Day」「We Are So in Love」「マジカル・ファンタジー・ツアー」辺りが好きです、ていうか全曲好きです。

 

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 V.A. / 風街であひませう

 

 6月24日発売。伝説のバンド「はっぴえんど」のドラマーとして、作詞家として。松田聖子赤いスイートピー」からKinKi Kids「硝子の少年」、はてはマクロスFランカ・リー星間飛行」までを手掛ける松本隆45周年記念トリビュートアルバム。手嶌葵草野マサムネスピッツ)、クラムボン斉藤和義やくしまるえつこYUKIハナレグミ中納良恵(EGO-WRAPPIN')、安藤裕子、小山田荘平(andymori)、そして細野晴臣。「もう分かった、分かったから!!」2作目である。

 

 トータルサウンドプロデューサーは安藤裕子UAでもお馴染みのLittle Creatures鈴木正人で、ほぼ鈴木さんのアレンジ。例外のクラムボンはミトが、YUKI沖山優司が手掛けているため、ベーシストアルバムとも呼べる。手嶌葵の「風の谷のナウシカ」、YUKIの「卒業」、中納良恵の「探偵物語」、安藤裕子の「ないものねだりのI Want You」、小山田荘平&イエロートレインの「SWEET MEMORIES」をよく聴いた。「探偵物語」ラストサビの今までの流れを無視した、せり上がってくるベースラインは白眉。

 

 

 やっぱり名曲が多い。そして、何よりも歌詞。

 

やさしさは 見えない翼ね
遠くから あなたが呼んでる
愛しあう人は 誰でも
飛び方を 知ってるものよ

 

風の谷のナウシカ」より引用

 

 

あなたの名 呪文みたいに
無限のリピート
憎らしくて手の甲に
爪をたててみる

 

星間飛行」より引用

 

 

ああ 卒業式で泣かないと
冷たい人と言われそう
でも もっと哀しい瞬間に
涙はとっておきたいの

 

「卒業」より引用

 

 

夢で叫んだように
くちびるは動くけれど
言葉は風になる
好きよ・・・でもね・・・
たぶん・・・きっと・・・

 

探偵物語」より引用

 

 

純情薄情満場一致の美少女

 

「ないものねだりのI Want You」

 

 

失った夢だけが
美しく見えるのは何故かしら
過ぎ去った優しさも今は
甘い記憶 Sweer Memories

 

Sweet Memories」より引用

 

 

 PIZZICATO ONE / わたくしの二十世紀

 

 まさかの「風街であひませう」と同日発売。こちらは、渋谷系の中心的グループだった「ピチカート・ファイブ」のフロントマンだった小西康陽ソロ・プロジェクトアルバム。こちらも、市川実和子UAおおたえみり小泉今日子西寺郷太NONA REEVES)、ムッシュかまやつ、YOUなど更にアクの強い錚々たる個性的な面々が揃っている。

 

 ハープのもとで、おおたえみりの老女のような、少女のような声がよく映える「私が死んでも」をよく聴いた。

 

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 YUKI / 好きってなんだろう・・・涙・となりのメトロ

 

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 7月29日発売。時期的にも音楽的にも、先月発売された「tonight」を選ぶべきなのだろうが、あえてこちらを。Charaもそうだけれど、新進気鋭のアーティストに対するYUKIの嗅覚もすごい。PRADAやルミネの広告を手掛けたことでも有名の、東京藝術大学大学院映像研究科卒業のシシ・ヤマザキとコラボした「好きってなんだろう・・・涙」のMVは必見。ロトスコープと呼ばれる、被写体の動きをカメラで撮影し、それをトレースしてアニメーションにする手法が取られており、YUKIたっての希望でシシ・ヤマザキも出演(?)している、生命力に溢れたMVだ。YUKIのボーカルを基調としたトラックが印象的な今回の楽曲は昨年にはできていたそうだが、卒業制作があるというシシ・ヤマザキを待つ形で今年発売になったという経緯があるそう。

 

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 そのタイトルに思わず微笑んでしまう「となりのメトロ」は、「うれしくって抱きあうよ」ぶりくらいのアコースティックサウンドのミドルテンポチューン。

 

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 椎名林檎 /  長く短い祭・神様、仏様

 

 8月5日発売。この人は本当に世相を読みつつ、世間が求める椎名林檎像を時代に合わせ作り上げるのがうまい。「能動的三分間」の流れに位置されるであろうメロウなブラジル風のダンス・チューン「長く短い祭」。浮雲との声の相性は相変わらず素晴らしい。オートチューンが今風。コードの当て方がやっぱりセンスいい。今日の紅白でのパフォーマンスが楽しみだ。

 

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 個人的には「神様、仏様」の方が好き。カルキの頃のサウンドを彷彿とさせる、和風ロック。MVも久しぶりに児玉さんの面目躍如という感じで、見ていて最高に面白い。ZAZEN BOYSの向井さんとの相性もいいなあ。U-zhaanのタブラと山本拓夫和楽器風フルートが効いている。アウトロの急変する村田陽一によるホーンセクションがスリリング。

 

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 Beach House / Depression Cherry

 

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 8月28日発売。ドリーム・ ポップデュオ、Beach Houseの5thアルバム。ドリーム・ポップの名に相応しい「甘美なヴィクトリアのヴォーカルとドリーミーでメランコリックなトラックが紡ぎだす極上のポップ・アルバム」である。ディストーションギターと煌びやかなシンセのうねりに、どこかへトリップさせられそうになる「SPARKS」。ジャケットの赤いベルベットがとても素敵なので、気になった方はぜひCDというフォーマットで手に入れてほしい。

 

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 omni sight / eternal return

 

 9月6日発売。2013年邦楽ベストアルバムにも挙げた「Marihiko Hara & Polar M」のお2人が参加されているので、買ったアルバム。”omni sight(オムニ サイト)”は、シネマティック・インストバンドL.E.D.のリーダー佐藤元彦、BOOM BOOM SATELLITESORIGINAL LOVEなど様々なアーティストやバンドのドラマーとして活躍してきた平井直樹により、2013年に京都で結成されたユニットだそう。気づけば体が揺れてしまう有機的なビート、透明感のあるサウンド。インストということを忘れさせられる一音一音の情報量の多さ、そして"抜き"の絶妙さ。ボーっと考えごとをするときによく聴くアルバム。

 

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 Julia Holter / Have You in My Wilderness

 

 9月25日発売。ロサンゼルス出身の音楽家、ジュリア・ホルターの4作目。CalArtsで作曲を学んだ後2011年に「Tragedy」でデビュー。2013年にリリースした「Loud City Song」で絶賛を浴び、世界的認知を得たそう。讃美歌のようなコーラスとハープシコードの古風な響きが面白いアンビエント風の楽曲「Feel You」。ヴォーカルの言葉の載せ方、区切り方が癖があって好きだ。

 

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 坂本真綾 / FOLLOW ME UP

 

 9月30日発売。デビュー15周年にして9枚目のアルバム。間違いなく今年一番多く聴いたアルバム。参加メンバーは、「やさしい気持ち」などCharaのアレンジでもお馴染みの渡辺善太郎the band apart花澤香菜に続いて登場 北川勝利、鈴木祥子に、安藤裕子のメインアレンジャー山本隆二、コーネリアスこと小山田圭吾菅野よう子Rasmus Faber大貫妙子森俊之かの香織h-wonderandropの内澤崇仁、さかいゆう河野伸、作詞で岩里祐穂坂本慎太郎……「もう分かった、分かったから!!」3作目。

 

 これだけの提供陣にも関わらず本人作詞作曲の1曲目「FOLLOW ME」、中間曲「これから」、最終曲「アイリス」がアルバムをグッと引き締めているのがすごい。意味不明なコード進行のもとで小気味よい歌詞が跳ね回るロックなアップテンポソング「Be mine!」、もっさんが良い仕事をしている「SAVED.」。壮大な歌詞と展開を見せる「アルコ」はさすが菅野よう子という出来栄えで、年季の入ったゴールデンタッグここにあり。サビでトーンが下がるのが面白い「ロードムービー」、ジャジーな「かすかなメロディ」など、1曲1曲の質がとにかく高い。

 

 「順位をつけろ」と言われたら迷うことなく1位にするであろう、個人的に今年一番ハマったアルバムだった。

 

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 Joanna Newsom / Divers

 

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 10月23日発売。「ハープを抱いた歌姫」という異名を持つ、女性SSWジョアンナ・ニューサムの5年ぶりとなるアルバム。クラシックの要素が強い、ハープを基調とした耽美なサウンドに、ケイト・ブッシュを彷彿とさせるヴォーカル。薄靄がかかった山々にこの世のものとは思えない花が咲き乱れているというジャケットのような音像。ファンタジックでメランコリックなMVがまた素敵。

 

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 Deerhunter / Fading Frontier

 

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 10月16日発売。メンバーのブラッドフォードが「春の最初の日のようなレコード」と評するように、ダークな一面が垣間見えた前作とは打って変わって開放的なアルバム。柔らかく滲むバンドサウンドに美しいメロディが絡み合い、シンプルなドリーム・ポップという音像。今作では異質とも言える、アップビートの「Snakeskin」が特に好き。

 

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 水曜日のカンパネラ / ジパング

 

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 11月11日発売。2015年の音楽シーンを語る上で外せない「水曜日のカンパネラ」。初めて聴いたとき抱いた感情は"不愉快”だったはずなのだが、中毒性のある楽曲とコムアイ人間性に惹かれ、いつの間やらハマってしまった。売りどきに全力で売り出せ!とでも言うような怒濤のMV大量制作が潔い。水曜日のカンパネラアートディレクション面から紐解いた下記のインタビューがとても面白かったのでリンクを載せておく。

 

水曜日のカンパネラ、最高傑作『ジパング』をクリエイター陣と紐解く

www.qetic.jp

 

 中でも「マッチ売りの少女」はこれまでの楽曲から頭一つ抜けているという印象。「ギンギラギラギラギラギラギラさりげなく マッチをちょうだい」という歌詞はさすがケンモチさんうまいなあ、と。こういう音楽でマジメに遊び倒す、っていうの、レキシといいキュウソといい、メッセージ過多な音楽に辟易したリスナーたちの捌け口として猛威を奮っているが現代らしい。マッチのようにゆらめくピアノと抑制の効いたビート、コムアイのふわふわラップ、絶妙な按配で入ってくるサックス。非常にバランスの取れた佳曲。今後、「水曜日のカンパネラ」というプロジェクトがどういう方向性に進んでいくのかが楽しみだ。

 

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 赤い公園 / KOIKI

 

 11月25日発売。文句なしの個人的2015年ベストソング。赤い公園、そして津野米咲津野米咲はすごい。Cメジャーで始まり、テンションノートを含むIIm7とIIIm7を、III♭m7をパッシングさせつつ、繰り返す不安定なAメロ。メロディはシンプルで力強いのに、ヴォイシングで複雑なサウンドに。動きのあるBメロは1小節目のCメジャーと同じフレーズのまま3小節目にE♭メジャーに転調(IVM7→IVm7の流れで)、途中で更にA♭メジャーに転調、そのままサビへ。4回転調しているにも関わらず、展開の不条理さみたいなのが一切ない、潔い一筆書きのような流れ。

 

 サビへのハードルが高まりに高まる中、なんとサビはいきなりI→Iaug→I6→I7の鉄板進行で開放感のあるメロディを聴かせる。2番でまたCメジャーに戻るときも、CメジャーのIIm7(9)に、Aメジャーの同主短調のAm7が含まれているため、違和感なし。圧巻。他にも間奏明けのサビをIII7を含む泣きのコードにリハモしていたりととにかく、もう津野米咲の才能が詰まりに詰まっている。共時性を持つ阿久悠的な歌詞も素晴らしいし、YUKIの「JOY」作編曲やSuperflyの「愛をこめて花束を」、米津玄師の「アイネクライネ」編曲などの蔦谷好位置によるアレンジの交通整理も完璧。

 

 面白いのが津野さんの作る楽曲って明らかにキーボーディストのそれなのに、本人がギタリストのところ。装飾過多で複雑なコードを3ピースのもと、かなりオミットしてギターで響かせることで風通しよく、聴いていて耳が疲れることがない。そこが赤い公園の最大の面白み。

 

 矢野顕子ケイト・ブッシュCoccoが好きな50代の母親が赤い公園を溺愛しているのも納得。だって曲も詞もJ ポップが連綿と受け継いできた部分と、津野さんに影響を与えたジム・オルークのような前衛さの按配が絶妙なんだもん。本当に「猛烈リトミック」以来、赤い公園、そして何よりも津野米咲の才能の爆発がすごい!24歳!

 

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赤いマントたなびかせ
颯爽とやって来たけど
並の正義じゃ務まんない
あっち立てりゃこっち立たず

 

決めたビートをひた打って
淡々と生きてきたけど
たまに正義が決めらんない
そっちじゃない

 

良いとこ見せたくても
ここぞでかっこ悪くて
とてもじゃないけど
ヒーローになんてなれっこないね

 

世界が浮き足立っても
あなたが泣いてたらしょうがない
こんな時笑えるジョークを
ひとつくらいは持ってたいな
だって小粋でいたいのだ

 

赤いマント脱ぎ捨てて
悠々自適になったけど
ノミの正義がくすぶって
あっち立てりゃこっち立たず

 

安いビートにただ乗って
どんちゃん騒いでいいけど
たまに正義を疑って
こっちを見て

 

善いことしようとしても
ここぞですっ転んで
とてもじゃないけど
ヒーローだなんて柄じゃないね

 

世界が肩を落としても
あなたが笑ってたらいいじゃない
こんな時ふたりでそっと
踊れるステップ覚えたいな
だって小粋でいたいのだ

 

誰もが自分のことで
本当はいっぱいいっぱいなんだ
寂しさに負けそうになって明日がこわくて
それでも優しさを振り絞ってゆく

 

世界が浮き足立っても
あなたが泣いてたらしょうがない
こんな時笑えるジョークを
ひとつくらいはひねり出して
呆れて笑うあなたのそばで
ずっと小粋でいたいのだ

 

赤い公園「KOIKI」より引用

 

 

 北園みなみ / Never Let Me Go

 

 12月22日発売。「1990年生まれ、長野県松本市在住、男性。作詞、作曲、編曲に加え各種楽器の演奏をこなすシンガーソングライター。AOR、ジャズ、フュージョン、ファンク、シティポップとさまざまなジャンルをクロスオーバーするクオリティの高いサウンド、多彩なメロディと洗練されたアレンジ、心地よいボーカルなどが魅力」とのこと。要するに天才である。若干24歳にして、前述の花澤香菜のアルバムにて管弦編曲を北川勝利さんに任されていたり、私の大好きなバンド Lampのアルバムでアレンジとして参加していたり。とにかく曲を聴いてもらえば分かると思う。キリンジ冨田ラボなんかが好きな方はドツボのはずである。

 

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 日食なつこ / 逆光で見えない

 

 12月9日発売。岩手県出身、ピアノ弾き語り女性SSW日食なつこ、初のフルアルバム。1stから2ndミニアルバムまではピアノ1本で激情的なピアノを聴かせ、3rdから4thはバンドサウンドのもとでよりポップになったサウンドを響かせ、5thでドラマー・komakiという盟友を得てからはピアノVS.ドラムという形が主となっている。今作もその系譜に位置している。

 

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 日食なつこの魅力と言えば、やっぱり歌詞だろう。人間の弱いところを思いっきりえぐった後、「まあせいぜい頑張んなさいよ」と後ろからグッと押し出してくれる荒療治的歌詞。

 

一体全体何してんだ
そんな場所で何を待ってるんだ
相手は人間なんだから
口に出さなきゃ分かりあえない

 

一進一退いつもいつでも
こんな場所で風を待ってるんだ
今こそ人混みの中へ飛込む
さあ あんたよ見ていて

 

「跳躍」より引用

 

 

咲いた 咲いた あの子の大輪の花
羨望 あたしはいつ花開くのか
嫉妬に濡れた夜の空を齧って過ごした苦い味
理解者など未だ不要
空を穿って花火をあげろ

 

「非売品少女」より引用

 

 

何回言っても伝わらないで 使いこなせもしない言葉の爪
手入れもせずに振りかざして つけた傷跡を消す薬はない

 

「ヒューマン」より引用

 

 

黙っていなきゃならないのに 耐えきれなくて口を開く
何か言わなきゃならないのに 無性に悲しくて黙りこむ

 

重たい体を引きずって 身軽な言葉に振り回されて
疲労困憊 それでも人は 懲りずにまた誰かに会いに行く

 

「Fly-by」より引用

 

 下記サイトでさっき褒めちぎった赤い公園が日食なつこを褒めちっぎている。

 

1st フルアルバム 逆光で見えない

nisshoku-natsuko.com

 

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 以上、23000字に及ぶクソ長いベストアルバムでしたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。皆さんのお気に入りの歌手が、バンドが、1人でも、1組でも見つかったなら、この記事を書いた甲斐があります。2016年も素敵な音楽に出会えますように!それでは皆さん、良いお年を。

 

 

毛玉 / 新しい生活

Rinbjö / 戒厳令

おとぎ話 / CULTURE CLUB

Björk / Vulnicura

Viet Cong / Viet Cong

Natalie Prass / Natalie Prass

安藤裕子 / あなたが寝てる間に

Dan Deacon / Griss Rifeer

Chara / Secret Garden

ももいろクローバーZ / 青春賦

Laura Marling / Short Movie

クラムボン / Triology

Ryley Walker / Primrose Green

Sufjan Stevens / CARRIE & LOWELL

Toro Y Moi / What For

花澤香菜 / Blue Avenue

V.A. / 風街であひませう

PIZZICATO ONE / わたくしの二十世紀

椎名林檎 / 長く短い祭・神様、仏様

YUKI / 好きってなんだろう…涙・となりのメトロ

Beach House / Depression Cherry

omni sight / eternal return

Julia Holter / Have You in My Wilderness

坂本真綾 / FOLLOW ME UP

Joanna Newsom / Divers

Deerhunter / Fading Frontier

水曜日のカンパネラ / ジパング

赤い公園 / KOIKI

北園みなみ / Never Let Me Go

日食なつこ / 逆光で見えない

 

(発売日順)

 

邦楽:18枚
洋楽:12枚