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安藤裕子 Premium Live 2015 ~Last Eye~ @大阪中央公会堂 12.04(金)

 「2013 ACOUSTIC LIVE」以来となる大阪市中央公会堂で、「安藤裕子 Premium Live 2015 ~Last Eye~」の初日公演が行われた。

 

 

 思い切りネタバレをしていますので、ご理解をいただける方のみ読み進めてください。

 

 

 近年、アコースティック形式のLIVEはサンケイホールブリーゼで開催されていたので、過去の記憶と照らし合わせるようにネオルネッサンス様式の瀟洒な内装を愛でつつ、今回のライブに相応しい落ち着いたジャズが流れるSEを聴きつつ、開演を待つ。金曜日の夜ということもあり、スーツのお客さんが目立つ。暖かい場内の空気と日中の疲れから、少しうとうとする中、開演時間を5分ほど過ぎてLIVEが始まる。

 

 

 赤い照明のもと、「いらいらいらい」のイントロを彷彿とさせる1コードのガレージロック的な山本タカシさんのギターリフが不穏に響き、そこに山本隆二さんのピアノが浮遊感のあるスケール外の異音を乗せる。てっきり、「いらいらいらい」が始まるものとして身構えていたため、「いつだって僕らは」と安藤裕子さんが1曲目から張りのある伸びやかな声で場内を満たしたとき、瞬時に理解が追い付かなかった。そう、くるりの「ワールズエンド・スーパーノヴァ」のカバーである。"今回のLIVEは初期の曲や、懐かしの曲をたくさんやろうと思います"(*1)とインタビューで答えられていたので、いきなりカバーかよ!!とツッコミそうになったが、「大人のまじめなカバーシリーズ」に収録されている2つのバージョンの「ワールズエンド・スーパーノヴァ」、そのどちらとも違う、また新たな解釈の素晴らしいカバーだった。2番のAメロでピアノが裏拍でコードを刻み、ビートを攪乱しつつ、訪れるサビ前の一瞬のブレイク。1000人ほどのこじんまりとした会場と、舞台に真摯に対峙するファンが生む完璧な静寂、そしてそこからの熱量の再放出。アウトロの安藤さんのフェイクが最高に気持ちよかった。繰り返される「どこまでも行ける」の歌詞に呼応する、空高く突き抜けていくような、荒野を走り抜けていくような力強さを持つ、絶妙なフェイク。一回だけ「いつまでも行ける」と歌ってしまい、安藤さんの顔がその直後ほころんだように見えたが、空耳と錯覚だろうか。

 

(*1)下を参照

www.hmv.co.jp

 

安藤裕子ライブ情報&本人コメント動画が到着! - YouTube

 

 

 続くのは、ヴァイオリンのCHICAさん、チェロの篠崎由紀さんによるストリングスが弓で弦をはじき(スピッカートというのだろうか)、その上にフランス風のピアノが加わり、 諧謔的なアコギのメロディが乗るという、パスカルコムラードやクリンペライを想起させる、壊れたおもちゃ箱みたいなアヴァンポップ調のイントロが面白い「み空」。2013年のアコースティックライブでの何かが憑依したような鬼気迫る「み空」も圧巻だったが、ティム・バートンのお遊戯会とでも評したくなるような軽快な今回のアレンジもまた素敵だった。「廻る」のリフレインを抜けたサビの広がりは、ストリングスが入ることでより爽快に感じられた。「傷は舐めて癒えるもの 膿んだふりなんて見せつけないでよ」のCメロ明けの間奏を経たサビは、途端にシンプルなピアノの伴奏のもとで幼く歌われ、涙を誘う。ラストの「美空など諦めて」を「美空など焼き捨てて」と珍しく歌詞間違いをしていたのが、少し面白かった。もし「Acoustic Andrew」が発売されるなら、ぜひ収録していただきたいアレンジだった。

 

 "お元気ですか?"という安藤さんの呼びかけに沈黙する観客席。ワンテンポ遅れて"元気です!"と応じる男性に"優しい人だね"なんて言いながら安藤さんのMCが始まる。"しばらくアイドルと妖怪(*2)を行ったり来たりしていたが、近頃妖怪に寄りすぎた""何かほっこりした曲をやりたい"ということで、SNSでファンにアンケートを取るも、コアなファンの選曲はそれぞれ独自色が強く、"もはや集計を取るに値しないほど割れに割れた"そうで、"どうセットリストを組むべきかよく分からないまま初日を迎えた"とのこと。"皆さんにとって懐かしい曲なのかは分かりませんが、聴いてください"と前置きして、歌われたのは「ドラマチックレコード」。ここで、ストリングスが一度抜ける。

 

(*2)「グッド・バイ」のツアーである「Live 2013 HELLO & goodbye」にて、「絵になるお話」を歌う姿を"アイドル"、「いらいらいらい」「獏砂漠」を"妖怪"と自ら評していた。

 

 

 LIVEで歌われるのは恐らく、「LIVE 2010 "JAPANESE POP"」ぶりじゃないだろうか。左記のツアーには参加できていないので、私個人としてはLIVEで聴くのは初めてで、何とも嬉しい選曲だった。 2009年に福岡のテレビ局の音楽番組「チャートバスターズR!」の企画でアコースティックスタジオライブが行われていたそうなのだが、そこでのバージョン(下に参考動画)に近かった。優しいアコギの伴奏はまるで麗らかな草原のように、まろやかなファルセットがそこに吹く柔らかい風のように、会場を温かい空気で満たしていく。ピアノもそっと添えるだけ、椎名林檎さんのサポートでもお馴染みの鳥越啓介さんによる深みのあるウッドベースの安定感がまた心地よく。ストリングスが加わることにより、散らかりそうになるアコースティック編成を、ベースが支えつつ、ぐっと引き締めていて、安藤さんも仰られていた通り、今回の編成が正解のような印象を受けた。

 

www.youtube.com

 

 

 "この会場、こんなに暗かったっけ?""客席が全然見えない"というMCがまさか伏線になっているとは気づかないまま、「あなたと私にできる事」へ。アコースティックライブらしい、ミドルテンポの味わい深い曲が続く。静謐な音のうねりに身を委ねていると、じわじわと熱を帯びるアウトロの盛り上がりに鳥肌が立つ。ウッドベースを揺れながら奏でる鳥越さんが色っぽかった。暗い会場の中、山本タカシさんの丁寧に磨かれたギターのボディに照明が反射し、フラッシュのように瞬いていた。あまりの心地よさに夢見心地になっていたが、"まだ4曲目ですよ、私のα波ボイスで眠たくなっていませんか?"と安藤さんに見透かされていた。

 

 "夕べ寝ずに練習したんですが、自分と程遠い曲調なので歌詞もメロディも全然体に入らなくて……""なにせ音楽性に乏しいので"と自虐しつつ、クリスマス曲に関するMCが続く。"私、最初セットリストにクリスマスの曲を入れてなくて""そしたら、マネージャーが「ええっ」って困惑していて、そういえばSNSで大々的に募集していたな、と"という発言に安藤さんらしいと苦笑しつつ、"HPで宣伝していたものは仕方ないと入れてみたけれど、全然間に合わなかったので歌詞をガン見しながら歌おうと思います"という発言に笑いつつ。"リズム感に自信のある人?"という安藤さんからの呼びかけに、最前列の方が手を挙げるも、鈴を渡す際には"本当だろうな?"と煽る安藤さん。"ちょっとあんまりな感じなので、客席が暗い状況で歌える自信がない"というセリフに先程のMCの理由を合点して。客席が明るくなり、安藤さんが鉄琴を奏で、イントロが始まる……も、高音部で音が鳴らず。それも、御愛嬌。

 

 イントロだけだと何の曲かさっぱり分からなかったので、「I don't want a lot for Christmas」という歌いだしに驚く。なんと「All I Want for Christmas Is You(恋人たちのクリスマス」のカバーだった。謙遜されていたものの、やはり普通に上手くて歌手ってすごいと当たり前のことを改めて実感。ゴスペル歌手さながらのサビの張り上げが圧巻だった……が、安藤さんは自分がそういう一面を出しているのがおかしいのか時々吹き出しそうになっていた。2番から、山本隆二さんはピアノでなく、トイピアノらしきものを弾かれており(下に参考画像)、かわいらしい仕上がりに。宣言通り歌詞をガン見しながらの歌唱だったが、「All I want for Christmas is you」の歌詞の部分だけはきちんと正面を向いて歌われていた。余裕が出てきたのか途中から踊りもつけ、アイドル安藤裕子を存分に発揮。華やかなエンディングで曲も終わりかと思いきや、安藤さんの鉄琴ソロがアウトロでも入る模様。しかし、やはり高音部は出ず。めちゃくちゃハイレベルな宴会芸を見せられたような気分になった。安藤さんのLIVEは何故か見る側も緊張するのだが、アットホームな雰囲気に思わず笑みがこぼれ、張り詰めた空気が弛緩していった。

 

 

 

 "それ、また使うからちゃんと返してね"と渡した鈴を取り返しつつ、"熱い"と連呼する安藤さん。遠くからなのできちんと視認できたわけではないが、スカート部分がゴールドのサテン地、胸の部分は灰色に黒のT字のラインが入ったワンピースの上に、青いカーディガン、紫のタイツに青い靴という装い。"熱いけど、二の腕を見せたくないから(青いカーディガンを)絶対に脱がない"と仰られていたが、結局中盤で脱がれていた。"山場は越えたので、ここからはまた真剣に歌いたいと思います"というMCの後、ミドルテンポバラードの「唄い前夜」が続く。

 

 1曲目として歌われた、2013年のアコースティックライブのアレンジに近かった。寂寥感のあるアコギのイントロで始まり、2番からピアノとウッドベースが加わる。そのままのメロディとコードがいいために、限りなく音を排しても、むしろ曲の持つ良さが引き立つ。日頃耳にする積み重ねられた音楽もいいけれど、耳をそばだてれば一つひとつの楽器が奏でるメロディを追うことができるシンプルなアレンジと、そこに溶け込む安藤さんの歌声がただただ気持ちいい。山本隆二さんはフェデリコ・モンポウ、特に「ひそやかな音楽」(*3)がお好きだそうだが、その静謐さにはどこか近しいものを感じる。

 

(*3)モンポウに関しては、こちらのサイトが詳しい。

モンポウの世界 - Federico Mompou's world

 

 

 再びストリングスが加わり、「ニラカイナリィリヒ」へ。イントロの主旋律をストリングスが奏で、例えるならBjörkの「Joga」のようなクラシカルで深遠なアレンジに。エレキギターの唸りが深い森に響く動物の吠え声のようで、ピアノが繰り返す一定のコード進行は、生で聴くとヴォイシングの妙がより感じられた。2番からはBPMを速め、激しさを増すピアノとボーカルに焦燥感に駆られる。そのままの勢いを保ちながら、山本タカシさんのカウントを経て、安藤裕子最高速のシングル「パラレル」へ。

 

 ドラムレスというのに凄まじい熱量でもって押し寄せる音の塊に圧倒されながら、素朴なのに一つひとつの言葉が強い、究極のラブソングといっても過言ではない歌詞を堪能する。Cメロの「you know my guilt」の部分は青い照明の中、赤いランプが点灯し、CD音源より複雑に感じられるピアノの不協和音、荒れ狂うストリングスが不安を煽る。限りない緊張の後のブレイクに息を飲まされ、ラストの「君がすき」という最高音の絶唱が胸に響く。観客に拍手をする隙を与えないように、山本隆二さんが最後の一音を保ちながらそのまま次の曲へ。

 

 不穏なピアノ、何かに突き動かされるように同じ音を同じリズムで刻むベース、絶妙に不安定で浮遊感のある旋律を奏でるストリングス、ギターはシューゲイザーのように混沌に滲む。秋の大演奏会での「エルロイ」のアレンジを彷彿とさせる、怪しく、暴力的でありながらも、耽美なサウンドのもと、安藤さんが譫言のように英詞を口走る。新曲か、それともカバーか分からないまま曲が進み、苛立ちを放出させるように「Hello」という歌詞が繰り返され、ふと気づく。ニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」だ。サビはまさに「叫び」だった。安藤さんの喉が心配になるほどの「叫び」。山本隆二さんのお好きなRobert Glasper Experimentがこの曲をカバーしているが、ジャジーなアレンジのそれとは別物だった。3ピースとは全く違ったベクトルのアレンジなのに、カート・コバーンがこの曲で表現している苛立ちがそのまま詰まっていた。「Hello」の部分の変遷するコード進行のリハモが素晴らしかった。あともう少しで壊れそうなのに、ギリギリのラインで踏みとどまっている危うさ。山本隆二さんのこの手の前衛的なアレンジは堪らなく好きだ「A denial」――「拒絶」を連呼し、楽曲が終わると、カバー曲にも関わらず観客席から声が上がった。安藤さん本人も仰られているが、このカバーが聴けるのが3公演だけというのがもったいない、名演だった。

 

 

 

 "どうしよう、何か喋ろうと思っていたのに、素に戻ってしまった"という独白する安藤さん。"生死を歌う曲が増え、曲に飲み込まれるのが怖くて、仮面の部分が強くなり、ついつい喋りすぎるようになった""ディレクターからは「それ、やめなさい」と注意されるんだけれど……""はよくMC中に素に戻って何を喋っていいか分からなくなっていた"という言葉に、昔の――といっても、3年前くらいなのだが――安藤さんのLIVEに思いを寄せる。近頃、急にMCが上手くなられ、観客をトークで笑わせることもしばしばあるが、数年前までは安藤さんのMCの出来なささと、ボソッと呟く言葉の面白さに笑いが起きていたことや、MCが途切れ途切れすぎて、ファンから「その服どこの?」「何食べた?」なんて声が上がっていたことなどを思い出した。安藤さんは"どうしよう"と不安そうな表情だったが、きっと私だけでなく、他のファンも皆「それでいいんだよ」「それがいいんだよ」と心の中で声を掛けていたはずだと思う。個人的には、久しぶりに安藤さんの素の部分、弱さが垣間見られてどこか安心した。"私は元気です"とMCの最後に脈絡なく、誰に言うでもなく呟かれていたのが印象的だった。

 

 徐々にアコースティックライブらしからぬ音の膨らみを見せる展開だったが、ここで少しクールダウン、ピアノだけのシンプルなアレンジのもと、透徹なファルセットが冴えわたる「忘れものの森」へ。中央公会堂は前述の通り久しぶりだが、本当にいい会場だと思う。古い酒造がその蔵だけの酵母を持つように、長い年月をかけて会場に沁みこんだ音の歴史の重みが、サウンドをより深く醸成しているような気がする。最後の音が消えてゆくとともに、照明に安藤さんの涙がきらりと光った。

 

 「夜と星の足跡 3つの提示」のイントロが始まった瞬間、本能的に「泣く」と察知し、途端に瞼の奥から熱いものが込みあげ、突然のことに自分でも戸惑った。いつの間にか涙が一筋頬を伝い、そこからは何が何だか分からないまま、溢れるように涙がこぼれた。LIVEで泣くのは初めてのことだった。中学1年生、安藤さんを聴き始めたばかりだった頃、冬の空、冷たい風の中、街灯もない田舎道に美しく煌めく夜空、塾の行き帰りの道に合い、よく聴いていた曲だった。中高の思い出が走馬灯のように駆け巡っていく。音楽の趣味は色々変わってきたが、安藤さんだけは指針のように常に聴いていた。数日前に大学に合格し、急いでチケットを取って、参加できた今回のLIVE。ご都合主義じみているが、安藤さんからの餞別のように感じた。アウトロの歌詞カードにない部分はかなり音が高いが、CD音源の繊細なファルセットとは違う、がなるような、声が割れた歌い方をされていて、そのハスキーな叫びに心を打たれた。安藤さんとの出会いの曲ではないけれど、この曲は確かに安藤さんとの思い出の曲だった。本当に、来て良かった。ありがとう。

 

 "曲が作れなくなっていた"という発言にはとても驚いた。以前何かのインタビューで"音楽は生活の中で勝手に出てくるものだから、スランプはない"と仰られていたし、ここ最近にそんな素振りは感じられなかったからだ。"ディレクターのアンディ(安藤雄二さん)が「作れないなら、もらえばいいんじゃない」と言ってくれた""3月に「頂き物」というアルバムを出すが、これは私に曲をくれたこれは10人の優しい人たちと、支えてくれる周りのスタッフのお陰でできたアルバム"。

 

 "親しくない人とは付き合わず、親しい人にはわがままな性格で、友だちというものがあまりいません""でも、10周年を境に、少しずつ音楽業界の友だちも増えてきた""そんな中で昨年は特にイベントに呼ばれることが多くて、年末のTKくんとの対バンに向けて「今年は出会いの年だった」という話をしたら、TKくんが「じゃあこれが今年最後の出会いですね」と言って「Last Eye」というタイトルがついた曲をくれた""宇宙のイメージの曲です"というMCを受けて、ちょうどLIVEの前日に先行配信されたばかりの新曲「Last Eye」へ。

 

 映画音楽のような、ドラマチックさを持つ楽曲。音源とほぼ同じと思われる今回の編成にサウンドがよく映えていた。「そして僕がいつも淹れたげるコーヒーには 口をつけない君 世界が冷えてく」というどこかTKさんっぽさを感じる2番のAメロの歌詞が好きだ。会場の外で吹き荒れているであろう冷たい冬の風のような高音のファルセットと、熱いチェストボイスの混じり合いが美しかった。サビ前のピアノリフに初めてメロディが乗り、徐々に強さを増すピアノソロの後の「まだ見えないよ」のサビ、壮大なストリングスには鳥肌が立つ。盛り上がりを終え、またピアノだけのアウトロが奏でられ、まるで遠い宇宙に行って帰って来たような心持ちになった。

 

 続く「The Still Steel Down」は打って変わって深い森にいるような照明に。届かない恋心が歌われる切ない歌詞に、次々とメロディが変遷していく独特の構成、力強いサビ。究極的に安藤裕子らしい曲だと思う。「ねえ溢れ出す想いを木の葉に刻んでも 雪がいつかそれを隠してくれるのなら」という詞が今の季節によく合っていた。昨年末のプレミアムライブでも演奏された曲だが、何度聴いても嬉しい名曲だ。

 

 "3公演しかないので、LIVEを育てていくのは難しい""でも、色んな感情をもらえた舞台でした。本当にありがとうございました"というMCを挟み、「走り出し 落ちかけた夕陽を追う」という歌詞に合わせたのだろうか、夕暮れのような赤い照明の中、感傷をそそるイントロから「歩く」へ。ヴァイオリンとチェロしかない、小編成のストリングスだからこそ、二声の弦の美しい絡み合いをじっくり味わうことができた。目を閉じて、サビの昂ぶり、何かを確かめるように繰り返されるラストの「夜は走り去る」を聴く。長く続いた夜は終わった。曲が終わり、目を開けると、そこには水色の中に眩い光が滲む、朝焼けのような照明があった。

 

 ラストはやはり「聖者の行進」。歩くの後に、行進。生きていくには歩き続けなければならない、ということか。安藤さん本人も覚えていらっしゃるか分からないが、かつて昔のインタビューを色々と探している中で、「Middle Tempo Magic」の頃のあるインタビューを見つけ、そこで「聖者の行進」の歌詞の由来を語られていた。"夜遅くにTVを観ていると、NHKのドキュメンタリーで、中学生特集がやっていた""私たちが子どもの頃は将来の夢は自由だったが、今の子どもは堅実な職業を選ぶようになったらしい""夢は決して叶うとは限らないものだけれど、幼い頃に見た夢が大人になってから支えになったりする""子どもたちに自由に自分の夢を持ってほしいと思って書いた曲です"というようなことを――多少脳内で脚色しているかも知れないが――仰られていた。ラストの歌詞カードにはない「身を焦がされても失くさないで 夢見てくれたらいいの」という歌詞に安藤さんのその想いを感じることができた。祈りのような出だしから咆哮のようなラストの歌声、静から動へ行進していくバンドの演奏でもって、力強く本編が終わった。

 

 アンコールに、安藤さんに加え、山本隆二さんと山本タカシさん、それから鳥越さんが出てくるも、山本タカシさんが鳥越さんに耳打ちし、鳥越さんは舞台袖にはけていった。"いつもの3人で演奏しようとしていたら、今回初顔合わせの鳥ギョエさんが(噛んでいた)出てきたので、タカシくんが眼力で追い返しました"と安藤さんが笑いを取る。アコースティックライブでお馴染みの、しかしこの前のアコースティックライブでのギターは設楽博臣さんだったため、少し久しぶりのW山本コンビのもとで歌われたのは「六月十三日、強い雨。」。アコースティックライブを始めるきっかけとなった長崎という地に感化されるように書かれた、アコースティックライブの初心を思い出すこの曲。ストリングスやウッドベースが入る華やかな編成もいいけれど、帰るべき場所はこことでもいうような、長い旅から帰って来たみたいな安心感があった。

 

 "私はいつもここで物を売る人にならないといけないんですが、この会場は退館時間が厳しいので、手短にいきます"と、いつもの物販をスピーディーに済ませた後、最後のMCへ。"今年は色々と考える年でした""みんな、生きろ――ってもののけ姫みたいになりましたけど""どうかお元気で、生きてください。またお会いしましょう"という別れの言葉に続くのは、IIm9の不安定なイントロ。松任谷由実さんの「A HAPPY NEW YEAR」だった。もちろん聴いたことのある曲だったが、今回安藤さんのボーカルでしっかり聴いてみて、そのセンスに脱帽した。なかなか主和音が登場しない、揺蕩うようなコード進行のもと、VII♭7を効果的に用いながら、メロディがきちんと展開していく様は、年末のあの何とも言えない高揚感と年の瀬の寂しさを体現するかのよう。原曲に忠実なアレンジだったが、確かにこの曲はアレンジする余地がない名曲だなあと実感した。クリスマスから、年末へ。そしてまた、新しい1年を迎えよう。

 

 「問うてる」はすっかりエンドロールの貫禄がある。2番前の間奏の山本タカシさんのアコギのソロがカッコよすぎて、痺れた。ジャジーで軽快なアレンジ、しかし歌われるのはあくまでも生きることの諦念、そこが安藤裕子らしい。「平凡に生きる毎日だけじゃなくて 悲しみさえ求めて」私たちは生きていく。ラストの「ラーラーラー」で、シャイなファンの皆さんと心の奥底で繋がったような感覚を受けながら、懐かしの曲から王道曲まで満遍なく楽しむ中で色々な感情を得ることができた最高のLIVEが終わった。

 

 また来年も、安藤さんのLIVEをたくさん見られますように。

 

 


「セットリスト」

 

 

01.ワールズエンド・スーパーノヴァ(「くるり」カバー)
02.み空
03.ドラマチックレコード
04.あなたと私にできる事
05.All I Want for Christmas Is You(「Mariah Carey」カバー)
06.唄い前夜
07.ニラカイナリィリヒ
08.パラレル
09.Smells Like Teen Spirit(「Nirvana」カバー)
10.忘れものの森
11.夜と星の足跡 3つの提示
12.Last Eye
13.The Still Steel Down
14.歩く
15.聖者の行進

 

 

(アンコール)
16.六月十三日、強い雨。
17.A HAPPY NEW YEAR(「松任谷由実」カバー)
18.問うてる

 

 

 

Vocal, Glockenspiel:安藤裕子

Electric & Acoustic Guitar:山本タカシ

Wood Bass:鳥越啓介

Violin:CHICA

Cello:篠崎由紀

Piano, Toy piano, Bandmaster:山本隆二