安藤裕子 × スキマスイッチ 「360°サラウンド」 レビュー | 歌詞 & コード解説

 ※前置きが長くなってしまったので、歌詞に興味のある方はスクロールしていただければありがたいです。

 

 安藤裕子スキマスイッチのコラボシングルが出る。

 

  そんなニュースを聞いたのが、4月の末。安藤裕子さんの大ファンで、スキマスイッチ(敬称略)も大好きな私からすると、これ以上ない最高のコラボ。思えば安藤裕子さんとスキマスイッチが昨年末5回にわたり対談したFM802の「徒然ダイアローグ」内で「また、コラボができたらいいね」なんて話していたけれど、まさかこんなに早くその夢が実現するとは思いませんでした。

 

 スキマスイッチを初めて認識したのは――恐らく大多数の人がそうでしょうが御多分に洩れず――「全力少年」だったと思います。発売されたのが2005年なので、もう10年前。安藤裕子さんを本格的に聴き出したのが5年前。彼女の出世作「のうぜんかつら」が使用されている永作博美出演のあの名作CMを目にしたり、レイザーラモンHGに絡まれていたMステ出演を何となく覚えている(気がする)ものの、安藤さんよりスキマスイッチの方が付き合ってきた期間は長い。なんだか不思議です。

 

 前述の「徒然ダイアローグ」で「ゲノム」や「パラボラヴァ」などを聴き、興味が出て買ったセルフタイトルアルバム「スキマスイッチ」の他、「奏」「ガラナ」「ボクノート」「ユリーカ」など挙げればキリがない数々の代表曲やタイアップ曲を耳にしてはいるものの、堂々と「ファン」と呼べるほど曲は知りません。しかし、J-POPのメインストリームに長年君臨しながらも良質な楽曲群を発表し続けるスキマスイッチの堅実な活動姿勢に尊敬の念を抱いていることは確かです。

 

 スキマスイッチの魅力は幾つもあると思いますが、そのひとつが「歌詞」であることは間違いありません。ファンだからこそ言えますが、安藤裕子さんの歌詞は分かりにくい気がします。大体の意味は掴めるものの、多数の比喩が散りばめられた抽象的な詞が多く、ひとつひとつの言葉を理解するのは難しい(「夜と星の足跡 3つの提示」「グッド・バイ」など)。ただ、ひとつひとつの言葉が分からないが故に、もっと奥深いところで理解できるような気がするのも確かですし、その歌詞がメロディと合わさって、安藤さんの声を伴って歌となり、こちらに向けられた瞬間、とてつもない感動を呼ぶことが彼女の「詞が好き」というファンが多い所以でしょう。

 

 対するスキマスイッチの歌詞は「分かりやすい」と思います。「分かりやすい」というのは「簡単」だとか「単純」といったことではなくて、より「普遍的」という意味で。日常における小さなエピソードを、美しい日本語の組み合わせで、より広い意味合いに敷衍してゆく――そういう歌詞の組み立て方をするアーティストとして「スキマスイッチの右に出るものはいない」とまで、ライトリスナーですが、思います。あと、言葉とかストーリーに押しつけがましさがなくて、素直に耳に沁み込んでくる。メロディに対する言葉のハマり方が絶妙っていうこともあるんでしょうが、何より説教臭さがない。懐が広くて、ニュートラルな印象を受けます。メロディやアレンジに関しても同じように思います。その辺りが、音楽に対するこだわりの強さはとてつもないものの、スキマスイッチが広く長く大衆に受け入れられている理由なんじゃないでしょうか。

 

 実は安藤裕子さん、ご自身が作詞されていない楽曲を本人名義で出されるのは初めてです(東京スカパラダイスオーケストラ沖祐市さんの「Gospel」というアルバムでゲストボーカルとして歌われた「真夜中の列車のように」は同じく東京スカパラダイスオーケストラ谷中敦さん作詞ですが、本人名義ではないので)。「アルバムの風通しをよくするために」1枚のアルバムにつき1曲は外注曲(末光篤さん a.k.a. SUEMITSU & THE SUEMITH、宮川弾さん、GREAT 3の白根賢一さんなど)があるものの、ゲストボーカルとして参加されている楽曲に至るまで、前述の「真夜中の列車のように」以外は全て本人作詞です。その、初の他人が書いた詞がスキマスイッチで本当に良かった、と安藤さんファンとして思います。

 

 そんなこんなで前置きが長くなりましたが、安藤裕子さんとスキマスイッチのコラボシングルである「360°サラウンド」の歌詞がこちらです。一部、聞き取れなかった部分があるので、コメント欄などで教えていただければ嬉しいです。

通りすがりの方に教えていただきました!それに伴い、一部加筆修正させていただきました。

 

 

舞い踊る水しぶきが午後の気温 あげてく

ほら 指さす方 青空

夏の朝の空気のように ワクワクする気持ちのまま

君と二人 創造していけたらいいなぁ!

 

打ち付けている 今年初めての夕立

360°(ぜんほうい)のサラウンド 街中を包む

この音が止んだら 始まる僕たちの夏

雨宿り 並んで 見上げて 待ってる

 

手をつなぐたび 君とのcm(センチ)を測っていたい

不安定な空みたいに 行ったり来たりもするけど

 

舞い踊る水しぶきが午後の気温 あげてく

ほら 指さす方 青空

夏の朝の空気のように ワクワクする気持ちのまま

君と二人 創造していけたらいいなぁ!

 

僕らが抱える シアワセに潜んだ少しの不安

でも雨がないと 生きられない それこそリアリティ

 

日常の中の幸福度を検知できたなら

2人でいること 巻き起こる全てが愛しい

 

雨上がり 街路樹が 爆発したように夏をまとう

ほら 子どもたち 駆けてく

3、2、1で歌い出す 蝉たちのこの季節のアンセム

響いていけ 濡れてたTシャツが乾いてく

 

ヒリヒリと痛いくらい 今年も焼き付けてくよ

 

雨上がり 街路樹が 爆発したように夏をまとう

ほら 太陽が急かしてる

 

照らされたアスファルトが最高気温 あげてく

ほら そびえ立つ入道雲

いまさらギュッと掴んでいなくたって

消えたりしないと油断していたら

君が手を ほどいてちょっと前を歩いて

 

僕を見透かして 笑ってる

 

 

 (安藤裕子「360°サラウンド」より引用 ©スキマスイッチ

 

 

 そしてこちらがその楽曲。日本初の技術を使った(と「めざましテレビ」で言っていました)MVが面白いです。AndroidiPhoneの「YouTube」アプリ、PCだとChrome ブラウザなどで、このパノラマの新技術が楽しめるそうです。Björkがニューアルバムの「Stonemilker」という曲でこの技術を使っていたのを見て「ほー やっぱりビョークはすげえ」なんて思っていたのですが、まさか安藤さんのMVで使用されるとは思いませんでした。タイトルにぴったりの技術で、まさにナイスタイミング!

 

 


安藤裕子 / 「360°(ぜんほうい)サラウンド」 ‐MV‐ - YouTube

 

 

 先日、この曲がFM802で先行公開されたとき、安藤さんとスキマスイッチのコメントが流れていました。その中で安藤さんが「うわー 坂道から美少女 自転車で漕ぎ降りてきて 浜辺でザザーンってやって なんか飲んだー」みたいなイメージだと仰られていて笑いましたが、まさにその通りの「スプラッシュ感」溢れる楽曲、そしてそれに相応しいどこを切り取っても夏らしい歌詞。そういえば、そのコメント内に

 

常「この曲を聴いて安藤裕子さんってこんな明るいんだって誤解してもらえたら」
安「どんだけ暗いイメージなんですか私(笑)」
大「スプラッシュ感」
安「でも私やっぱりジメッとしたイメージありますからね」

 

 なんて面白い会話もありました(笑)。

 

 流麗なストリングスセクションだけをバックに、サビから始まるこの曲。「夏の朝の空気のように ワクワクする気持ち」って部分が好きです。夏の朝、清々しい風と照り付ける日差しに、これから始まる1日への期待を否が応でも膨らまさせられる、あの独特な空気。そんな気持ちのように「君と二人」で、これからの未来を創造してゆけたらいいな。「想像」じゃなくて「創造」ですよ!夢がビッグです。

 

 楽曲の始まりとこの曲の「二人」の夏の始まりを盛り立てるように、徐々に楽器が増え、バンドサウンドが厚く、熱くなってゆくAメロ。「360°サラウンド」って夕立の音のことか!と合点。絶妙に入ってくるコーラスがまた、曲をより爽やかに。夕立の中、主人公の男の子と「君」が並んで雨宿りをしている情景の叙述説明がなされます。スキマスイッチの夏ソングといえば「切ない」歌詞の「アイスクリームシンドローム」が思い浮かびますが、こちらは「甘酸っぱい」。だって「始まる 僕たちの夏」ですからね。友情って名前のシンドロームから踏み出せないでいる彼に聞かせてあげたいです(笑)。

 

 マーチングのような急き立てるドラムが印象的なBメロ。「不安定な」という歌詞と合わせたわけではないでしょうが、ここのコード進行が絶妙に「不安定」なのですが、その話は後ほどのコード解説で。サビへの期待を煽る、いい橋渡しのBメロです。

 

 サビはなんといっても飛躍の激しい流れるようなメロディ!なんとこの曲、使用されているメロディは2オクターブちょっとあるんです。「ド」から次の「ド」までが1オクターブです。それが2つ分プラスちょっと。カラオケだとなかなか歌いづらいんじゃないかなあと思います。さすが大橋さん。でも、サビのメロディ展開がドラマチックなのは安藤さんの楽曲もそうです(「Paxmaveiti」「青い空」など)。そんな難しい曲をもたつくことなく難なく歌える、安藤さんのボーカリストとしての能力を改めて感じさせられました。歌詞は冒頭と同じ。四つ打ちリズムのドラムに「売れそう」って思ってしまいました。最近の邦ロックの常套手段(KANA-BOONの「ないものねだり」など)らしいですし。

 

 MVでも雨雲が出てきていましたが、2番のAメロは少し不穏な影が。少しの不安=雨がないと生きられない。植物はもちろん、人間だって「日差し」だけで成り立っているわけじゃないですよね。「雨」がないと。「少しの不安」があって初めて「シアワセ」が引き立つ。まさにそれこそリアリティですね。

 

 Bメロは1番とドラムのリズムが変わり、飽きさせません。「幸福度」ってオリジナルの言葉が面白いです。二人でいるということだけで、巻き起こる全てが、日々の小さなシアワセのひとつひとつが愛おしい。甘い!!(笑)

 

 そして、2番サビ前の一瞬ブレイクを挟んでの佐野康夫さん(じゃないかなと思っているのですが、別の方かも知れないです)のフィルインaikoの「あの子の夢」のイントロを彷彿とさせる(佐野康夫さんのドラムです)、初聴時にあっけにとられる、「入りをミスったんじゃないか」と一瞬訝ってしまう、でも最高に気持ちがいい絶妙なもたつき感。こういう一筋縄ではいかないちょっとした工夫が、最後まで飽きさせずに楽曲を聴かせてくれます。さすがの山本隆二さんのアレンジです(山本さんは安藤裕子さんのデビュー時から今までのほとんどの曲のアレンジ、LIVEでのバンドマスターを務められています。スキマスイッチでもLIVEのサポートをされているそうです)。

 

 「雨上がり 街路樹が 爆発したように夏をまとう」。この表現、すごいなあ。木の葉に溢れる水滴が光を乱反射させて、夏の熱気をもその葉のひとつひとつにまとう、あの雨上がりの瞬間が詩的に沁み込んできます。「アンセム」が聞き取れたのは我ながらよく聞き取れたと(笑)。蝉の鳴き声が夏のアンセムだなんて、素敵です。

 

 重厚なストリングスに軽やかなグロッケン。次々と変遷していくコードが面白い間奏を経て、一瞬のブレイク。安藤さんの「ドラマチックレコード」のラストサビ前のブレイクをふと思い出しました。思わずハッとさせられます。

 

 いよいよクライマックス。「色づく」の部分で、「おっ?」と思ってしまいました。「づ」が少し噛んでいる気がして。しかし、ここ、安藤さん及び安藤裕子チームの音楽にかける情熱が感じられる部分だと思います。安藤さんの楽曲って全て一発録りなんですよね。楽曲には、ドラマーだけとってみても、矢部浩志さんに沼澤尚さんに、佐野康夫さん、伊藤大地さんなどの名うてのスタジオミュージシャンが参加されおり、エンジニアは渡邊省二郎さんです。世界的なマスタリング・エンジニアTed Jensen氏からの評価も高い渡邊省二郎さん。そういえばスキマスイッチのアルバム「スキマスイッチ」のエンジニアも渡邊さんでした。業界最高峰の技術に裏打ちされた、スキマスイッチに勝るとも劣らない安藤裕子チーム(通称、ディレクターの安藤雄二さんの苗字をもじり「チームアンディ」と呼ばれています)の音楽制作にかけるこだわりが伝わる、一発録り。いくつものテイクから良い部分を継ぎ接ぎしてまとめる手法は今や普通ですが、そういう安易な音楽制作はしない。ここだけ録り換えれば、違和感はなかったのでしょうが、そんな野暮なことはしない姿勢が好きです。

ここ、そもそも歌詞を聞き間違えていたので安藤さんは噛んでいませんでした……。申し訳ないですし恥ずかしいですし、消したい部分ですが、ここを消すと一発録りと渡邉さんの件が無くなってしまうので、自分への戒めも込めて、残しておきます。

 

 キーを1つあげたラストのサビは畳みかけるような最後の歌詞が堪りません。男の子と女の子の関係性がよく伝わって、なんだか甘酸っぱいです。「君が手を」の「手」の部分、1番と2番にも同じ部分がありますが、なんと!!最後だけ半音下がっているんです!!ブルーノートと呼ばれるものなんですが、スキマスイッチの楽曲にはよく登場します。aikoの曲を想像してもらえば分かりやすいと思いますが、少しソウルフルな印象を受けると思います。ラストだけ変えてくるなんて、ニクい!

 

 上のYouTubeにアップロードされたMVではカットされているようですが、1分ちょっとあるアウトロはアレンジの妙で、最後まで高揚感を煽ってきます。エレピ(フェンダー ローズかな?)の入り方がもっさんらしい。グロッケンなんかもラストでまた彩りを添えてきて。本当に息つく暇のない程、盛りだくさんな曲でした。スキマスイッチの詞と曲、山本隆二さんのアレンジ、安藤さんのボーカル。3者のとてつもない化学変化が味わえる、名コラボでした。

 

 

 ……と、長々と書いてきましたが個人的にはここからが本題です。記事タイトルにもありますが、コード解説です。今まで詞について書いてきましたが、この曲、音楽的にもすごい。スキマスイッチの楽曲はコード進行が難しいことで有名ですが、昨年の音霊での対バンで安藤さんが「全力少年」を歌われたあと、大橋さんが「僕らの曲のコードって難しいんですが、それが更に複雑にされていて、今あれを弾けって言われても僕ら再現できないですよ」と仰られていたことからも分かるように、チームアンディの音楽的頭脳・山本隆二さんのおつけになるコード進行は更に難解です。「この音が来たなら、このコードが必ず来る」みたいな部分もたくさんあるので、スキマスイッチ(多分、鍵盤の常田さんがメインなのでは?と推測しています)のお2人がおつけになられたコードを元にして、山本さんがリハーモナイズされたのではと思っています。「自分の曲だとそんなに時間がかからないプリプロが今回は難航した。キーを変えてみたり、構造を変えてみたりしてやっと形になった」と安藤さんも仰っていたので、スキマスイッチのデモからも、かなり変更があったよう。そんなコードがこちら。

 

 全てを理解できる方は少ないとは思いますが、スキマスイッチと安藤さんの音楽の複雑さを少しでも体感していただければ幸いです。

 

 

 

 

 

(*1) | | は1小節を表しています。

(*2) / は左側がコード、右側がベース音を表しています。

(*3) ( ) 内はテンションを表しています。

(*4) 便宜上、1番と2番の繋ぎ目や間奏を[ Bridge ]と表記しています。

 

[ C (サビ) ] (Key=D♭)


| D♭ | A♭m / B | G♭M7(9) | G♭mM7 |

| Fm7(11) | D♭m /E | E♭m7(11) Fm7(♭11) | G♭m7 A♭ |

| D♭ | A♭m / B | G♭M7(9) | F7(♭13) Adim7 |

| B♭m7 | E♭7(9) | E♭m7 Fm7 | G♭M7 A♭7 |

 

[ Bridge 1 ]

 

| D♭ | A♭m / B | AM7 | A♭ |

| E F# |

 

[ A ](Key=B) 

 

| B  Em / B | B  F# / A# | G#m7  B / F# | C# / F |

| E F# | Gdim G#m7 | C#m7 F# | G#m |

 

| B  Em / B | B  F# / A# | G#m7  B / F# | C# / F |

| E F# | Gdim G#m7 | C#m7 F# | B |

 

[ B ]

 

| EM7(9) | B / D# | C#m7(11) D#7(♭11) | G#m F#m7 |

| Fm7-5 B♭7 | D#m7 Bm / D | C#m7 | D#m7(11) / G#  G# |

| F# / G#  G# |

 

[ C (サビ) ] (Key=D♭)

 

| D♭ | A♭m / B | G♭M7(9) | G♭mM7 |

| Fm7(11) | D♭m /E | E♭m7(11) Fm7(♭11) | G♭m7 A♭ |

| D♭ | A♭m / B | G♭M7(9) | F7(♭13) Adim7 |

| B♭m7 | E♭7(9) | E♭m7 Fm7 | G♭M7 A♭7 |

 

[ Bridge 2 ]

 

| D♭ | E F# |

 

[ A ](Key=B)

 

| B  Em / B | B  F# / A# | G#m7  B / F# | C# / F |

| E F# | Gdim G#m7 | C#m7 F# | B |

 

[ B ]

 

| EM7(9) | B / D# | C#m7(11) D#7(♭11) | G#m F#m7 |
| Fm7-5 B♭7 | D#m7 Bm / D | C#m7 | D#m7(11) / G# G# |

| N.C. |

 

[ C (サビ) ] (Key=D♭)

 

| D♭ | A♭m / B | G♭M7(9) | G♭mM7 |

| Fm7(11) | D♭m /E | E♭m7(11) Fm7(♭11) | G♭m7 A♭ |

| D♭ | A♭m / B | G♭M7(9) | F7(♭13) Adim7 |

| B♭m7 | E♭7(9) | E♭m7 Fm7 | G♭M7 A♭7 |

| D♭ (2 / 4) |

 

[ Bridge 3 (間奏) ] (Key=E)

 

| E | F# | AM7(9) G#7 | C#m7 E7 |

| AM7 | A#dim7 | G#m7-5 | C#7 |

| DM7(9) | DM7(9) | C#sus4 C#M7 | F#sus4 F# |

 

[ B ] (Key=B)

 

| Fm7-5 B♭7 | D#m7 Bm / D | C#m7 | D#m7(11) / G# G# |

| N.C. |

 

[ C (サビ) ] (Key=D♭)

 

| D♭ | A♭m / B | G♭M7(9) | G♭mM7 |

| Fm7(11) | D♭m /E | E♭m7(11) Fm7(♭11) | G♭M7 A |

 

(Key=D)

 

| D | Am / C | GM7(9) | GmM7 |

| F#m7(11) | Dm / F | Em7(11) F#m7(♭11) | Gm7 A |

| D | Am / C | GM7(9) | F#7(♭13) A#dim7 |

| Bm7 | E7(♭9) | Em7 F#m7 | GM7 A7 |

| D A / C# | CM7 B7 | Em7 F#m7 | GM7 |

 

[ Outro ]

 

| D | Am / C | GM7(9) | GmM7 |

| F#m7(11) | Dm / F | Em7(11) F#m7(♭11) | Gm7 A |

| D | Am / C | GM7(9) | F#7(♭13) A#dim7 |

| Bm7 | E7(9) | Em7 F#m7 | GM7 A7 |

 

| B♭M7  Gm /B♭  B♭M7 | B♭M7  Gm / B♭  B♭M7 |

| Am / C  C  Am / C | Am / C  C7 C |

| B♭M7  Gm /B♭  B♭M7 | B♭M7  Gm / B♭  B♭M7 |

| Am / C  C  Am / C | Am / C  C7 C |

| B♭M7  Gm /B♭  B♭M7 | B♭M7  Gm / B♭  B♭M7 |

| Am / C  C  Am / C | Am / C  C7 C |

| B♭M7  Gm /B♭  B♭M7 | B♭M7  Gm / B♭  B♭M7 |

| Am / C  C  Am / C | Am / C  C  Am / C |

| D |

 

 

 ……いかがでしょうか?ゴチャゴチャしていて見づらいところからも、この曲の複雑さを理解していただけると思います。かなり丁寧に表記しましたが、基本的にテンションはメロディがコードに対してテンションになっている部分なので、プレイされる際には省いてもらって大丈夫です。「セブンスコードが多くて弾けない……」という場合は、セブンスは省いてもらっても雰囲気は味わえると思います。ラストは普通に「B♭M7→C→D」と表記すれば分かりやすかったと思いますが、原曲のピアノの忠実な感じで表記しました。あと、あくまで耳コピですので、実際のコード進行と異なる部分があるかも知れません。悪しからずご了承ください。

 

 それでは、コード解説にいきます(ようやく)。使用されている音楽理論の名称は分からないけれど、興味があるという方は下記のサイトが非常に見やすく、分かりやすく、面白くまとまっていますので参照ください。

 

soniqa.net

 

 

(Key=D♭)

 

| D♭ | A♭m / B | G♭M7(9) | G♭mM7 |

| I | Vm / VII♭ | IV | IVm |  

 

| Fm7(11) | D♭m /E | E♭m7(11) Fm7(♭11) | G♭m7 A♭ |

| IIIm | Im / III♭ | IIm IIIm | IVm V |

 

| D♭ | A♭m / B | G♭M7(9) | F7(♭13) Adim7 |

| I | Vm / VII♭ | IV | III V#dim |

 

| B♭m7 | E♭7(9) | E♭m7 Fm7 | G♭M7 A♭7 |

| VIm | II | IIm IIIm | IV V |

 

 

 曲の順番に沿って、いきなりですがこの曲の肝、サビのコード解説。この曲、キーがあと1つ下か1つ上だったら取りやすかったんですが(ハ長調が含まれるので)、#が5つのロ長調(特にピアノ曲以外のクラシックだとめったに見ないです(*1))と♭が5つの変ニ長調なので、シャープやらフラットやらがいっぱいなんですよね。そのため、コードの下にディグリーネームでの表記もしておきました。赤字は特に注意すべきコード。

 

(*1)ヴァイオリンでは音階に開放弦の音が一つしか含まれず主要三和音では倍音の響きが極めて乏しい。(WIkipediaより)

 

 まず注目すべきはいきなり登場するA♭m / B。なぜ、こんな突飛なコードがいきなり来ているのかといいますと、いきなりノンダイアトニック・トーン、つまり非正規の音が使用されているんです(「まいおどる みずしぶき」の赤字になっているところがそうです)。ディグリーネームで表記すればVII♭なのですが、簡単にいうと「ドレミファソラシ」が正規の音なのに「シ♭」が使用されているんです、それもいきなり。A♭mはドミナントマイナーなのでノンダイアトニックコード――この場合はその中でもモーダルインターチェンジ、同主短調からの借用となっています。「I→V / VII」という展開はありふれていますが、「I→Vm / VII♭」となると格段に珍しくなります。安藤裕子さんだと「愛の季節」のサビの入りが同じ進行です。ノンダイアトニックコードには個人的に浮遊感を感じます。そして、「ずしぶ」とノンダイアトニック・トーンが使用されたあと、次の「」でいきなり1オクターブ近い飛躍があるので、なんともいえない浮遊感、そして爽快感が感じられると思います。

 

 続く「G♭M7→G♭mM7」というサブドミナントからサブドミナントマイナーの進行。基本的に構成音は同じなんですが、マイナーになることで「シ♭」が「ラ」に半音下がって、なんとも渋みのある響きになっていると思います。安藤裕子さんだと「ようこそここへ」のサビの入りが同じ進行です。

 

 そしてDm♭ / E。歌詞だと「ほら」の部分です。ここ、いきなり体ごと落っこちてゆくような重力を感じませんか?ベース音が「ファ」から、これまたノンダイアトニックトーンの「ミ」に半音下がっているんです。ここは多分、スキマスイッチではなく山本隆二さんによるものだと思います。おそらくこの曲では上記のように鳴っていると思いますが、III♭7やIII♭M7でも代用可能です。安藤さんだと「シャボンボウル」の「どんどん流れて お空」の「」の部分、坂本真綾さんの「SAVED.」でもサビ終わりの「私に光を与えてくれたか」で効果的に使用されています。山本さんアレンジの醍醐味です。

 

 G♭m7もまた、飽きさせない工夫ですね。「IIm→IIIm→IV→V」の同じ進行になっている部分、2回目はG♭M7なんです。本来は左記のコードを使用するのが普通なのですが、同じ繰り返しじゃあ面白くないということで1回目にモーダルインターチェンジであるG♭m7が使用されています。

 

 F7→Adim7はセカンダリードミナント。いくつかあるセカンダリードミナントの中でもIII7は断トツに使用頻度が高いので覚えておきましょう。平行調である変ロ調からの借用なので、物悲しさを感じると思います。間にディミニッシュを挟んで、ベース音をじわじわあげることで、より物悲しさがぐんぐん迫って来ていると思います。III7はVImに進む働きがあるので(上に書きましたが、変ロ(=B♭)短調のドミナントなので、主和音である)B♭mに解決。続くE♭7もB♭からすると、四度上への強進行となり実に自然な流れです。

 

 

(Key=D♭)

 

| D♭ | A♭m / B | AM7 | A♭ |

| I | Vm / VII♭ | VI♭ | V |

 

(Key=B)

 

| E F# |

| IV | V |

 

 

 冒頭のサビからAメロへと移行する部分のコード。ここは特に言うこともないですが、強いて言えばAM7ですかね。これもモーダルインターチェンジ。さっきからモーダルインターチェンジは何度か出てきましたが、日本語は同主短調変換と言います。同主短調(例えばハ長調だとハ短調)のコードを借りる技法です。スキマスイッチだと「SF」の前半部分のピアノリフがモーダルインターチェンジをうまく使用した浮遊感のあるコード進行です。セブンスが入り、ピアノで弾けばちょっとお洒落な響きに、三和音でギターで弾けばロックな味わいになります。後半のE→F#はもう既にロ長調です。ロ長調サブドミナントドミナントです。

 

 

(Key=B)

 

| B  Em / B | B  F# / A# | G#m7  B / F# | C# / F |

| I  VIm / I | I  V / VII | VIm  I / V | II / IV# |

 

| E F# | Gdim G#m7 | C#m7 F# | G#m |

| IV V | V#dim VIm | IIm V | VIm |

 

 

 いやあ、実によくできたAメロです。シンプルで、無駄がない。まず、特筆すべきはいきなり登場するEm、サブトミナントマイナー。ここは、多分山本さんの手によるものだと。メロディに対するコードの当て方が絶妙で、なんだかクラシカルな響きを感じませんか?

 

 そのままベース音が滑らかに下がってゆき、C#へ。このコードもセカンダリードミナントです。ドミナントであるVに向かうセカンダリードミナントなので、このコードだけ特別にダブルドミナントとも呼ばれています。もちろん、ノンダイアトニックコードなので「F」という本来のスケールにはない音が含まれているのですが、それをメロディに絡ませています。さすがスキマスイッチ

 

 後半部分は、III7(先程も紹介しました、「物悲しい」コードです)の亜種であるV#dimを混ぜつつ、今度は上昇クリシェ。ベース音に綺麗に上がっています。最後はツーファイブを経て穏やかにトニックへとシメ……かと思いきや、偽終止G#m。偽終止というのは、ハ長調でいえば「ドミ」で終わるはずのところを「ドミ」とマイナーコードでシメることを意味します。マイナーコードになるので、少し陰を残すんです。なぜ、ここで偽終止が使われているかというと、1番だけAメロが2回繰り返しなんですよね。そこで、変化をつけるために1回目のメロ終わりを偽終止にしています。もっさんの縁の下の力持ち的な心遣いです。2回目は同じ繰り返しですが、ラストはB、「偽」じゃなくきちんとトニックに終止しています。

 

 

(Key=B)

 

| EM7(9) | B / D# | C#m7(11) D#7(♭11) | G#m F#m7 |

| IV | I / III | IIm III7 | VIm Vm |

 

| Fm7-5 B♭7 | D#m7  Bm / D | C#m7 | D#m7(11) / G# G # |

| IV#m7-5 VII7 | IIIm  Im / III♭ | IIm | IIIm / VI  VI

 

| F# / G#  G# |

| V / VI  VI |

 

 

 これまたいいBメロ!ちゃんとBメロしつつ、最大限変わったことをしています。出だしはサブドミナントメジャーナインスと、かなり多い音数のコードでどこか寂しさを感じさせる出だしです。そこから下降クリシェ、そしてIII7をはさみつつドミナントマイナーで終了。そして問題はここからです。

 

 さっきのラストから滑らかに半音下がったFm7-5から強進行でセカンダリードミナントであるB♭7へ。ディグリーネームで表記すればVII7ですが、このコード、セカンダリードミナントの中で断トツに使用頻度が低いです。なぜなら「II#、IV#」というノンダイアトニックトーンが2つも含まれていて、下手したら調性まで変えてしまうことになりかねないからです。先程の歌詞の部分でも書きましたが「不安定な空みたいに」という歌詞に呼応するように「不安定な」コード。VII7の着地先はIIImなのでD#m7に、そしてサビの「ほら」の部分にも出てきた浮遊感のあるIm / III♭へ半音下降。ジェットコースターみたいに跳ね回るコード進行に振り落とされないように必死ですが、IImにこれまた半音下降したあと、なんとここでD#m7 / G#→G#。全てダイアトニックトーンですが、これが変ニ長調のツーファイブであるE♭m7 / A♭→A♭(全く同じ音で、表記の仕方が違うだけです)に当たるので、転調先の変ニ長調へ華麗にアプローチ。ラストにダメ押しでF# / G#→G#。皆さんついてこられましたでしょうか……?スキマスイッチと山本さんに振り回されっぱなしです。安藤さんもこの歌いにくいメロディを加工もなしで難なく歌いこなしています。これだけ複雑なことをしていながら、こうして気にして聴かない限りはサラッと耳を流れてゆくんですよね。そこがすごいところですし、カッコいいです。

 

 サビは冒頭と同じ、2番も基本的に同じなので、このまま間奏へ行きます。

 

 

(Key=E)

 

| E | F# | AM7(9) G#7 | C#m7 E7 |

| I | II | IV III | VIm I |

 

| AM7 | A#dim7 | G#m7-5 | C#7 |

| VI | VI#dim | IIIm7-5 | VI |

 

| DM7(9) | DM7(9) |

| VII♭ | VII♭

 

(Key=B)

 

| C#sus4 C#M7 | F#sus4 F# |

| IIsus4 II | Vsus4 V |

 

 

 間奏はもうムチャクチャなので(理論的には一分の隙もなく完璧なのですが……)説明すらしづらいのですが、少しでも理解していただければ。コードもわりと色々な取り方ができると思います。キーは普通にロ長調として取ろうかどうしようか迷ったのですが、ホ長調として取るのが自然かなと思います。一体何回目の転調なのか……。トニックからそのままIIへ。ちょっとワルイドな印象を受けます。そのままサブドミナントからセカンダリードミナントであるIII7へ。何度も出てきたのでもう説明は要りませんよね。そして、ここの部分。ストリングスのメロディは全く一緒(2小節単位で一区切り、それが2回繰り返されています)なのですが、当てられるコードが変わっていて面白いです。「」はEからすると構成音なのですが、AM7からすると9thでテンションになっていて。A#dim7のディミニッシュを挟みつつ、セカンダリードミナントC#7に強進行で進むためにG#m7-5を配置。ラストはモーダルインターチェンジDM7で浮遊感のあるコードを響かせつつ、半音下げてsus4を織り混ぜたロ長調のツーファイブで綺麗に転調。なんとも鮮やか。安藤さんでいうと「絵になるお話」の間奏もこんな感じです。キーボーディストである山本さんだからこそできるアレンジ。ギターじゃなかなか作れない進行です。

 

 そしてロ長調のBメロを挟んで、ラストのサビへ。ラストは変二長調から1つ上の二長調にサビのメロディを丸ごと移調。使用されているキーは3つ全体で8回も転調しています。もう何が何だか……という感じです。そりゃあ、写譜屋さんも愚痴ります。 

 

 

 

 

(Key=D)

 

| D  A / C# | CM7 B7 |

| I  V / VII | VII♭ VI |

 

 

 ラストはキーが変わっただけで、コードは今までのサビと基本的に一緒なので「君が手を ほどいてちょっと前を歩いて」の後のタメの部分を。といっても、ベースが半音に下がってゆくだけ、ですが。ストリングスのアレンジと相まって、実に効果的なタメです。

 

(Key=D)

 

| B♭M7 | B♭M7 | C | C | ×4

| VI♭M7 | VI♭M7 | VII♭ | VII♭ |

 

| D |

| I | 

 

 

 アウトロもサビのコード進行の繰り返しですので、MVではカットされているラストのコード進行を。坂本真綾さんの「SAVED.」や安藤裕子さんの「世界をかえるつもりはない」のラストでも同じような進行が用いられていますが、VI♭→VII♭→Iのモーダルインターチェンジを挟んでトニックへ解決する、非常に浮遊感のある、ロック色の強いコード進行。aikoが親の仇みたいに使うコードです。何だかこの記事、安藤さんとスキマスイッチに次いでaikoの名前が登場しましたが、aikoのメインアレンジャーである島田昌典さんもキーボーディストなので、おつけになるコード進行が山本さんとわりと近いんですよね。それでよく名前を出しました、っていう言い訳です(笑)。ラストまで解説のしがいのある、複雑だけれど押しつけがましさはない、でも骨太なコード進行でした。ややこしい内容でしたが、ここまでお読みいただいた方がいらっしゃれば、書き手冥利につきます。ありがとうございます。

 

 

 15000字を越える長い記事となりましたが、スキマスイッチ安藤裕子さん、そしてアレンジャーの山本隆二さんの最高のコラボレーションを楽しむ一助になれば幸いです。カップリングの「うしろ指さされ組」のカバーと、Instrumentalを楽しみに7月29日まで待ちます、それでは!

 

 

360°(ルビ:ぜんほうい)サラウンド

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