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常に新しくあり続けること

 インタビューを読むのが好きだ。

 

 

 好きな人のものならもちろん、そこまで知らない人のものでも。もちろん、インタビューなら何でもいいって訳ではない。その人の生き方を尊敬できるか。その人の思想に共感できるか。まあ、逆に言えばそのふたつの基準さえ満たせば、どんなインタビューでもいいのかも知れない。

 

 大手予備校の春期講習で四日間、大阪まで出向いた。ティム・バートン展に行ったり、オープンしたばかりのルクア 1100を歩いてみたり。付録が付いているものでもなんでも、一冊は自由に立ち読みができるようになっていて、それ以外は全てビニール包装されているという都会の本屋の心遣いに感動しながら(まあその規模、その売上の余裕からそういうことができるんだろうけれど)、色々な雑誌を立ち読みしてみたり。その中で、一際目を引く雑誌があった。

 

 

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 カルチャー雑誌「SWITCH」の「COMME des GARÇONS」特集号。日本の女性ファッションデザイナー川久保玲が1969年に創設した、フランス語で「少年のように」という意味を持つブランド。81年からパリ・コレクションに参加し、同時にデビューした山本耀司と共に、オートクチュールを頂点とする西欧モードを揺るがす「黒の衝撃」と騒がれた。97年の春夏では「ボディミーツドレス、ドレスミーツボディ」で美の基準に真っ向から牙を剥き、14年春夏以降の「モンスター」などのコレクションではコレクションの新しいあり方を提示している。また、ルイ・ヴィトンからH&Mまで、幅広いコラボレーションでも話題を集めている。

 

 友人に川久保玲系列の服を好んで着ている人がいたので何となくその存在は知っていたし、ちょうど予備校へ行く道にショップがあるので意識の片隅に強く位置していたのかも知れない。教材がたくさん入ったリュックに辟易としながら、迷わず雑誌に手を伸ばした。

 

 

 §

 

 

 立ち読みで済ませてしまったので(今ものすごく後悔しているので近日中にきちんと購入しようと思う)原文をそのまま引用することはできないが、川久保氏はひたすらインタビューで「常に新しくあること」を説いていた。帰宅後、母にそのインタビューで受けた衝撃を話したのだが、50代の母親も、自分が若かった頃から揺るぎない人気とその影響力、そして72歳という年齢にも関わらず全く感性が衰えていない斬新なデザインに感じるものがあると言っていて、長年にわたり第一線にいることを改めて認識した。

 

 川久保氏は毎朝7時半に出社し、パリコレ前は連日深夜帰宅だそう。スタッフも皆口を揃えて彼女を「勤勉家」と評する。どこかで見たようなもの、以前デザインしたようなものは徹底的に排除する。また、ニューヨークのチェルシー店には若いデザイナーを紹介するショールームスペースをつくっている。その辺りに「常に新しくあり続ける」秘訣があるのではないだろうか。そのストイックさには畏怖の念すら抱かせられる。

 

 よくネットではパリコレなどのコレクションから奇抜なデザインだけを抜粋して、その実用性のなさをあげつらい騒ぎ立てているが、近年のギャルソンにおいてコレクションで披露されるルックは”ブランドのイメージを象徴したもの”らしい。

 

 

www.asahi.com

 

 

 コレクションは象徴として考えたいというのが最近の気持ちです。クリエーションの象徴は精神的な部分も含めて強いものがあり、一方で、クリエーションをビジネスにする別の土台、別の部屋が必要です。やや線を引いた仕事をしていかなければならないかなと考えています。象徴としてのコレクションという風に割り切ったのです。

 

 もちろん象徴で終わってはダメですから、象徴の気持ちを実際のビジネスに落としていかなければならない。それは数字が絡むので線引きが非常に難しい。クリエーションをビジネスにする、ビジネスをクリエーションするというのは、様々な状況に対応できるように、個性があり独立したブランドをいくつも作ることもその一つです。それをどう展開していくかとなると、やっぱり店作りが重要になる。

 

 本当はビジネスもクリエーションです。究極のクリエーションをビジネスにしていくには、数字を追うだけでは意味がない。いかにクリエーションのビジネスを作りあげるか。これも私のすごく大きな仕事です。

 

 

 コレクションでのルックを見ると、毎度その奇抜さに驚かせられるのだが、店頭に並んだものを見ると、決して日常生活から切り離されたものではないように見える。インタビューでしきりに「コム デ ギャルソンはビジネスです」と言い切る川久保氏。

 

 制作した服を自身で直接店舗に売りに行き、その収益で次の制作に取り掛かっていたという元々からして、コム デ ギャルソンには「ビジネス」という言葉が常に根底を流れている。川久保氏は、「コム デ ギャルソン」のトップデザイナーという位置に留まらず、年間150億円を売り上げる「コム デ ギャルソン社」の経営者でもある。なんと、ショップのデザインから、顧客に配布しているDMのデザインまで全て自分で手掛けているそうだ。”デザイナーがつくりたいものをつくれる土台をつくるために、そしてその環境を守るために経営してゆく”という考えはこの時代、どの分野においても参考にすべき考え方なのではないだろうか。”純然たるクリエーションと、クリエーションに付随したビジネスに線引きをする”。創造性が必要とされる職業において、最も明快でシンプルな答えな気がする。

 

 

www.wwdjapan.com

 

 

WWD:自分自身を純粋なクリエイターだと思うか、それともビジネスウーマンと思うか?

川久保:私はビジネスウーマンよ。

 

 

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 今号の「SWITCH」には「コム デ ギャルソン」が1988年から91年の4年間に関係者向けに少部数制作していたヴィジュアルマガジン「Six」が全8冊、全ページ掲載されていた。その中で、スイッチ編集部が世界的写真家セバスチャン・サルガド(Sebastiao Salgado)の最新プロジェクト「Genesis」を特集し、川久保玲が監修した2015年スイッチ版「Six」も制作されていたのだが、そのセバスチャン・サルガドの写真が凄まじかった。

 

 ブラジル出身の写真家で、ドキュメンタリー写真・報道写真の分野において活動しているサルガド氏。71歳と、川久保氏と同じ年代に生まれた方である。世界の”リアル”をCGと見まがうようなモノクロ写真に閉じ込め、また新しい命を与えている。

 

 

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 ”常に新しくあること”は”孤独と戦うこと”でもあると思う。カルチャーが単調な生活を回す潤滑油でしかなく、個々の価値観に何の影響も落とさず、世に蔓延る多数派に付和雷同し、メディアがつくった流行に踊らされるこの時代。私たちがコム デ ギャルソンから学ぶべきことはたくさんあると思う。

 

 

 ――出口のない不況が続き、世界中で格差批判も広がっています。高級ブランドを扱う業界には逆風ではないですか。

 

 

 「どの分野でも、商品の値段や製作費用をいとわず、新しいものを作り出そうとしている人はたくさんいます。そうした姿勢は、どんな状況であっても人が前に進むために必要なものだからです。私にとってはファッションこそが、そうした場なのです」

 

 「一般の人には高くて買えない服でも、新しい動きなり気持ちがみんなに伝わっていくことが大切です。作り手が世界を相手に一生懸命に頑張って発表し、それを誰かが着たり見たりすることで何かを感じて、その輪が広がっていけばいい。新しいというだけでウキウキして、そこから出発できる。ファッションとはそういうものです」

 

 

 ――川久保さんの真骨頂は前衛的なデザインです。でも、世の中の風潮は安定感や着やすさを求める傾向にありますね。

 

 「すぐ着られる簡単な服で満足している人が増えています。他の人と同じ服を着て、そのことに何の疑問も抱かない。服装のことだけではありません。最近の人は強いもの、格好いいもの、新しいものはなくても、今をなんとなく過ごせればいい、と。情熱や興奮、怒り、現状を打ち破ろうという意欲が弱まってきている。そんな風潮に危惧を感じています」

 

 「作り手の側も1番を目指さないとダメ。『2番じゃダメですか』と言い放った政治家がいました。けれども、結果は1番じゃなくても、少なくともその気持ちで臨まなければ。1番を目指すから世界のトップクラスにいることができる。日本は資源がないのだから、先端技術や文化パワーで勝負するしかないのです」

 

 

 最後は、最新作2015年春夏「薔薇と血」からのルックでこの記事を終えたいと思う。

 

 

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