コード・音楽理論解説 / 安藤裕子「都会の空を烏が舞う」

  今日は趣向を変えて、楽曲のコード解説から音楽理論のお話を。

 

 1月28日発売の安藤裕子「あなたが寝てる間に」のラストを飾る「都会の空を烏が舞う」。コード進行がとても好きで、尚且つハ長調と解説しやすい楽曲のため、この曲を選びます。「猿でも分かる!」とは言いませんが、できるだけ音楽理論に親しみがない方でも最後まで読んでもらえるようにがんばって書いていますので、どうぞよろしくお願いします。

 

 

 実際にコードをお付けになられた、アレンジャーの山本隆二さんにもこう仰っていただいているので恐らく大きなミスはないと思いますが、それでも素人の耳コピですので間違いがありましてもあしからず。

 

(*1) | | は1小節を表しています。

(*2) / は左側がコード、右側がベース音を表しています。

 

 

 

 

(時代の香り ページをめくる~♪)

| C / B♭ | Am | G#dim | C / B♭ |

| C / B♭ | Am  A♭ | C / G  G#dim | Am |

 

 

 いきなりC / B♭!いきなりオンコードを持ってくるセンス!オンコードっていうのは、ベース音に本来のコードの根音(ルート)でないものを持ってくるという技法なのですが、これによりB♭M7(9,11,13)というテンションコードの中を抜いたのと同じ音になるので、浮遊感が生まれるんですね。また「シ♭→ラ→ソ#」と、ベース音が半音ずつ下がってゆく、下降クリシェになっています。終焉を思わせる、どこか物悲しいこの曲にぴったりの進行。「G#dim」は、セカンダリードミナント「E7」の代理です。この「E7」はもうJ ポップのバラードで見ないことはない、ものすごく使い勝手のいいコードです。この曲の調号、ハ長調平行調であるイ短調ドミナントですので、短調の響きを持ってくることができるんです。それゆえの物悲しさ。セカンダリードミナントなんで、つまりはトニックに解決するんです。前述の通り「E7」イ短調(Am)のドミナントですので、本来は「Am」に解決するコードなのですが、ここではどうやら「Am」に解決していません。ここが一番、耳コピしていて迷った部分なのですが、どうやら「C / B♭」に行っているようです。未解決のため、どこか不安定な感じがして、また浮遊感を増幅させています。

 

 後半部分も「シ♭→ラ→ラ♭→ソ→ソ#→ラ」とキレイに半音ずつ下がって、上がっています。ピアノが主体な曲に相応しい美しい流れです。途中で登場するA♭モーダルインターチェンジという技法。M.I.Dとも略されます。カッコイイ名前です。日本語名だと同主短調変換。少し分かりやすくなったのでは?要するに、ハ長調の同主(主音が同じ)短調であるハ短調のダイアトニックコードを借用する、という意味です。ここではパッシングディミニッシュ的に使われています。パッシングディミニッシュの意味は各自ググってね。個人的にモーダルインターチェンジは浮遊感を生むコードだと思います。浮遊感のゴリ押しです。

 

 

(痛むこゝろ 失くしたのは~♪)

| C / B♭ | Am | G#dim | C / B♭ |

| C / B♭ | Am  A♭ | C / G  G | C |

 

 

 ほとんど前述の進行と同じですが、ラストでようやくドミナントが出てきます!これまでが不安定すぎる!ドミナントというのは、お辞儀のときの「ジャーン ジャーン ジャーン」のピアノの「ジャーン」の部分……って「樹木希林の”き” !」くらい分かりにくい説明ですね。2回目の「ジャーン」、つまり礼の部分で鳴っているコードです。ラストはきちんとトニック「C」に解決しています。ここ、バックに合わせてお辞儀できます。

 

 

(空を舞う黒い影に~♪)

| G / F | C / E | G / D | C |

| FM7  G#dim | Am  D7(9) | D♭M7 | G / D |

 

 

 おっとパターンが変わりました。A→A'→BとしたらBの部分です。そしてここでもいきなり「G / F」!もっさんの初っ端ぶち込みオンコードです。まあ、単純にドミナントセブンス「G7」のトップノート「ファ」がベースにきているんですが、これもまた「FM7(9,11,13)」というテンションコードの中を抜いた音と一緒ですので、浮遊感を生みます。浮遊感生みすぎ!!!そしてやっぱり「ファ→ミ→レ→ド」とベース音が半音ずつ下がっています。もうすぐ閉館時間、みたいな焦燥感と寂しさがあります。

 

 後半部分で特筆すべきは「D7(9)」。構成音は「レ、ファ#、ラ、ド、ミ」。次の「D♭」に向かうパッシングディミニッシュ的な使い方です。「D」はハ長調ドミナント「G」のセカンダリードミナント(「D」は特別にドッペルドミナントとも呼ばれます)。そして「D♭」も「G」の裏コードなので、ドミナントの代理として使われます。裏コードというのは五度圏で真裏に存在するコードなので……って言ってもなんのこっちゃですよね。噛み砕いて言うと「D♭7」は「G」の変わりとして使えますよ~ また、変形パターンとして「D♭M7」も使えますよ~ って意味です。最後は「G」で終始しているので、ここはドミナントゴリ押しゾーンですね。コード進行における剛力彩芽ゾーンです。剛力彩芽は太字です。

 

 

(上手になった優しい言葉~♪)

| C / B♭ | Am | G#dim | C / B♭ |

| C / B♭ | Am  A♭ | C / G  G#dim | Am  F#m7-5 |

| C / G | G | C |

 

 

 ラストはまたAパターンです。A"ですね。ここで特筆すべきは「F#m7-5」。「なんや、ややこしそうなコードやなあ」と思うことなかれ。構成音は「ファ#、ラ、ド、ミ」。「あれ~ どっかで見たことある~」と思った方、お目が高い!そうです、「D7(9)」とほとんど同じ。ここでは次のベース音「G」に向かうパッシングディミニッシュ的な使い方ですね。パッシングディミニッシュってめっちゃでてきましたね。ちゃんと説明しておくべきでした。もうここまできたら説明しませんけどね!ラストの進行はまた、お辞儀できます。ハリー・ポッターでの松岡佑子の迷訳、ヴォルデモートの「お辞儀をするのだ!」を思い出しますね。

 

 

 実はこの曲、5分16分あるのですが、歌があるのは2分3秒のここまで。ここから3分間はアウトロです。アウトロ長い!そのアウトロの進行が美しすぎます。こちらです。

 

 

| C / B♭ | Am7 | A♭M7 | C / G  F#m7-5 |

| FM7 | Cm / E♭| D♭M7 | G / D  G | ×6

 

 

 ラストもやっぱり「シ♭→ラ→ラ♭→ソ→ファ#→ファ→ひとつ飛ばしてミ♭→ひとつ飛ばしてレ♭→レ」。「べっぴんさん、べっぴんさん、ひとつ飛ばしてべっぴんさん」みたいな関西人のノリ的ひとつ飛ばしが2か所ありますが、基本的に半音下降クリシェです。ベース音が下がってゆき、壮大なストリングスが高らかに上がってゆく……最後まで浮遊感です。しかも、BPMが徐々に早まってゆくという。ニクいねえ!しかも地味にバックで安藤さんの「ド」のコーラスがいくつも重なっているという。堪りません!ほとんどこれまでに出てきたコードですので説明するところは少ないですが、ひとつあります。「Cm / E♭」です。これもまた「E♭dim7」や「E♭7」で代用可能なパッシングディミニッシュ的な使い方です。ですが、なかなか「Cm」というトニックマイナーは見かけないですねえ。山本隆二さんは安藤裕子さんの「愛の季節」という楽曲でも「D / F#→Dm / F→Em7→Em7 / A→A」(Key=D)という流れでトニックマイナーをお使いになられています。Bメロの「会いたいなあ」の部分と、アウトロの部分です。こうしてベース音を変えて使うと全然違和感なく使えるんですねえ……。勉強になります。

 

 

| C / B♭ | C |

 

 

 そしてラスト。これ前のところにくっつけとけばよかったな。最後地味すぎる……。いや、何でもないです。「C / B♭」でラストオブザ浮遊感を出しつつ、ラストは「C」で気持ちよ~く終わっています。感無量。映画音楽のような余韻です。また1曲目を聴きたくなる絶妙な余韻。

 

 

 と、1曲を深く掘り下げて解説してみましたが、いかかだったでしょうか?解説を読んでから、もう一度曲を聴いてみていただいて「ほう、そうか!」となっていただければ嬉しいです。本当は歌詞の解釈まで書きたかったのですが、それをしていると日付を越えてしまうので今日はここまで。今週中に追記して、告知しますので、またそのときにも目を通していただければ幸いです。明日のLIVE、楽しみだなあ。